
注目ポイント
- 多発性硬化症(MS)、MOG抗体関連疾患(MOGAD)、AQP4抗体陽性視神経脊髄炎スペクトラム障害(AQP4+ NMOSD)では、それぞれ固有の病態形成機序を反映した異なる脳萎縮の推移が認められる。
- MSでは、広範な神経変性に整合するびまん性の全脳萎縮がみられる。
- MOGADでは、疾患再発および新規病変形成と関連した白質容積の減少と脳室拡大が認められ、イベント駆動型の神経軸索障害が示唆される。
- AQP4+ NMOSDでは、主として淡蒼球萎縮が認められ、異なる局所脆弱性のパターンが示される。
背景
多発性硬化症(MS)、MOG抗体関連疾患(MOGAD)、およびアクアポリン4抗体陽性視神経脊髄炎スペクトラム障害(AQP4+ NMOSD)は、臨床像に重なりがある一方で、免疫病理学的基盤が根本的に異なる炎症性脱髄疾患である。MSではびまん性神経変性と多発性白質障害が特徴であるのに対し、MOGADおよびAQP4+ NMOSDは抗体介在性疾患であり、急性発作により局所組織障害を来す。これらの病態における脳萎縮の経時的推移を理解することは重要であり、萎縮は臨床的障害度および予後と相関する。しかし、MOGADにおける疾患活動性と神経軸索喪失との関連は、なお十分に明らかになっていない。主要内容
研究デザインと対象集団
画期的なMAGNIMS多施設共同研究(Cortese et al., Neurology 2026)では、15の国際共同施設からMS、MOGAD、AQP4+ NMOSDの成人489例を後ろ向きに評価した。組み入れ基準は、確定診断、少なくとも6か月間隔で同一装置で撮像された脳MRIが2回以上あること、Expanded Disability Status Scale(EDSS)による同時期の障害評価、および縦断的臨床データの保有であった。対照群は、年齢および性別を一致させた健常者とした。画像評価と解析方法
脳容積は縦断的T1強調MRIから算出され、病変はLesion Segmentation Toolboxを用いて分割された。さらに、Sequence Adaptive Multimodal SEGmentation(SAMSEG)アルゴリズムを用いて容積を定量化し、被験者内テンプレート生成を採用することで、病変のばらつきがある状況下でも精度を最適化した。白質病変の動態に基づき、MOGAD患者は病変不変、新規病変形成、病変消失の群に分類された。 交絡因子(年齢、性別、ベースライン容積、施設)を調整した高度な線形混合効果モデルにより、全脳、白質、特定の深部灰白質構造、および脳室区画の年単位の容積変化率が推定された。脳萎縮の推移に関する所見
- 多発性硬化症:健常対照群と比較して全脳萎縮の進行が加速しており(-2.027 cm3/年)、広範な神経変性過程を確認する所見であった。これは既報(Filippi et al., Lancet Neurol 2018; Sormani et al., Lancet Neurol 2021)とも整合する。
- MOGAD:白質容積の有意な減少と側脳室および第三脳室の拡大が認められ、局所組織喪失とそれに伴う構造的代償を示唆した。再発性MOGAD患者では、MSよりも第三脳室拡大が大きく、疾患再発と神経軸索喪失との関連が裏づけられた。 MOGAD患者の22.22%で同定された新規病変形成は、MSおよびAQP4+ NMOSDで認められた変化を上回る著明な脳室拡大と相関し、萎縮を駆動する炎症活動の役割を強調した。
- AQP4+ NMOSD:主として淡蒼球に選択的萎縮が認められ、局所灰白質の脆弱性を示唆した先行研究(Kim SH et al., Neurology 2016; Akaishi T et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020)と一致した。
病態生理学的意義
脳萎縮のパターンは基礎病態を反映している。すなわち、MSの広範かつ緩徐に進行する変性は、MOGADおよびAQP4+ NMOSDにおける発作関連障害とは対照的である。MOGADでは、神経軸索喪失が病変動態と時間的・空間的に一致しており、持続的なびまん性神経変性ではなく、イベント駆動型の障害モデルを支持している。先行文献との比較
これまでの単施設研究および小規模コホート研究でも、これらの疾患間で萎縮プロファイルが異なる可能性が示唆されていたが、MAGNIMS研究は大規模多施設デザインと頑健な縦断データにより、これらの観察を強固に裏づけた。とりわけ、MOGADにおける新規病変と既存病変の区別は、炎症と脳容積変化との時間的関係に関する新たな知見を提供する。専門家コメント
MAGNIMS研究は、抗体介在性脱髄疾患における神経変性の理解を大きく前進させた。脳萎縮の推移の違いは、疾患特異的バイオマーカーおよび個別化治療戦略の必要性を示している。MOGADでは、これらの所見は疾患活動性と病変の推移を厳密にモニタリングし、神経軸索喪失を予測・軽減する重要性を支持する。 臨床的には、これらの結果は、すべての炎症性脱髄疾患における脳萎縮が主として進行性かつびまん性であるという前提に再考を迫る。むしろMOGADでは、臨床再発および新規病変形成と密接に連動したパターンが示されており、再発予防を積極的に行うことで脳組織の完全性を効果的に保護できる可能性がある。 限界としては、AQP4+ NMOSDの症例数が比較的少ないこと、追跡間隔が不均一であること、ならびに施設間・装置間のばらつきが存在しうることであり、これらは後ろ向き多施設画像研究に共通する課題である。今後は、拡散テンソル画像や機能的MRIなどの先進画像モダリティに加え、体液バイオマーカーを統合した前向き研究により、病態機序の理解がさらに深まることが期待される。結論
MS、MOGAD、AQP4+ NMOSDでは、それぞれ異なる脳萎縮パターンが認められ、免疫病理学的差異を反映している。MSはびまん性神経変性の経過をたどる一方、MOGADでは炎症活動性および病変蓄積に関連したイベント駆動型の神経軸索喪失が認められる。AQP4+ NMOSDでは、淡蒼球萎縮を特徴とする局所的な深部灰白質の脆弱性が示される。これらの知見は、疾患特異的な神経変性の理解を深めるとともに、MOGADにおいて不可逆的な脳障害を防ぐために疾患活動性の制御を臨床上重視すべきことを支持する。参考文献
- Cortese R, Bianchi A, de Mauro A, et al. Differential Trajectories of Brain Atrophy in Multiple Sclerosis, MOGAD, and AQP4 + NMOSD: The Role of Disease Activity in MOGAD. Neurology. 2026;107(10):e218673. doi:10.1212/WNL.0000000000008673. PMID: 42900856.
- Filippi M, Preziosa P, Banwell BL, et al. Magnetic resonance imaging correlates of disability progression in multiple sclerosis. Lancet Neurol. 2018;17(12):1147-1158. doi:10.1016/S1474-4422(18)30188-4.
- Sormani MP, de Stefano N, et al. Treatment response in multiple sclerosis: an expert opinion. Lancet Neurol. 2021;20(6):495-507. doi:10.1016/S1474-4422(21)00074-0.
- Kim SH, Kwak K, Kim HJ, et al. Clinical and radiographic characteristics in neuromyelitis optica spectrum disorder and multiple sclerosis: Comparison between Asian and Western patients. Neurology. 2016;86(3):223-228. doi:10.1212/WNL.0000000000002245.
- Akaishi T, Kaneko K, Misu T, et al. Regional brain atrophy in neuromyelitis optica spectrum disorders. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020;91(6):660-666. doi:10.1136/jnnp-2019-321265.