注目ポイント
– 緩和ケアの臨床医は、倫理的ジレンマや感情的対立など、複雑な終末期の場面により強い感情を抱く。
– そうした感情は、身体的・心理的な手がかりを通じて意識的に認識される。
– それを共有するか、またどのように共有するかは、感情的スキルやチーム内の心理的安全性などの要因に左右される精緻な評価に基づいて判断される。
– 感情を戦略的に共有することは、患者や家族とのより深い結びつきの構築に役立ち、患者中心・関係中心のケアを強化する。
研究背景
重篤な疾患を抱える患者の苦痛を和らげ、生活の質を向上させることを目的とする緩和ケアでは、感情的負荷の高いやり取りが避けられない。臨床医は終末期ケアを提供する中で、倫理的葛藤、患者・家族の苦悩、実存的課題にしばしば直面する。こうした相談場面には本質的に強い感情が伴うにもかかわらず、臨床研究や教育において臨床医自身の感情の役割は十分に検討されていない。臨床医が自身の感情をどのように活用しているかを理解することは、感情的レジリエンスを支える方策や、患者-臨床医関係を最適化するための戦略の構築に資する。これらは、思いやりのある包括的ケアを実現するうえで極めて重要である。
研究デザイン
本質的研究として、本研究は社会構成主義的グラウンデッド・セオリー(Social Constructivist Grounded Theory)を用い、緩和ケアの臨床医が患者との面談中に感情をどのように用いているかを検討した。研究者は、2名の心理士、4名のソーシャルワーカー、5名の看護師、11名の医師を含む、10か国にわたる多様な専門背景の22名の臨床医に個別インタビューを実施し、幅広い文化的・職種的代表性を確保した。参加者の大多数は女性(22名中14名)で、平均年齢は45歳、緩和ケア経験の平均は13年であった。本研究は、面談における臨床医の感情的活用に関する実際の体験を捉え、そのプロセスを解釈することを目的とした。
主な結果
感情を用いる3段階プロセス
本研究では、困難な終末期場面で臨床医が感情を扱う際にたどる、相互に関連する3つの段階から成る動的プロセスが明らかになった。
1. 感情の喚起と認識
臨床医は、倫理的ジレンマ、対立する意見、あるいは患者や家族の強い感情に直接さらされることなど、感情的に困難な状況に直面し、強い感情が喚起された。こうした感情は、心拍数の変化や筋緊張などの生理的サイン、あるいは侵入思考や気分の変化などの心理的手がかりを通じて自覚された。この認識は、臨床医が感情に意図的に向き合うための基盤となる重要な第一歩であった。
2. 感情共有の評価
感情を自覚した後、臨床医は自分の感情を表出することが適切かどうかを評価した。この判断は、自覚している感情的能力、過去の経験、そして所属チームにおける心理的安全性の認識といった複数の促進要因・阻害要因の影響を受けた。たとえば、感情表出が自然なものとして受け入れられ、価値づけられている支援的な環境では、臨床医は感情を共有することにより大きな自信を持っていた。
3. 共有の判断と方法
その後、臨床医は感情を共有するかどうか、共有する場合はどのように共有するかを決定した。共有方法には、言葉によって明示的に伝える方法と、ボディランゲージ、声のトーン、表情などの非言語的手段が含まれた。この共有は、患者や家族の感情を肯定し、相互理解を促進し、患者中心の終末期ケアに不可欠な関係性を深めることを目的としていた。したがって、感情の戦略的開示は、治療同盟を強化するための意図的な手段として位置づけられた。
中核概念:感情を通じたつながりの構築
すべての段階を通して、このプロセスを結びつける根底の価値は「つながりを育むこと」であった。臨床医は、自らの感情を用いることを脆弱性ではなく、患者や家族との共感、信頼、コミュニケーションを高め、ケアの質と深さを向上させる資源として捉えていた。
専門家コメント
本研究結果は、感情的コンピテンスが有効な緩和ケアの重要な構成要素であるという、近年の文献上の認識と整合する。強い臨床状況を燃え尽きることなく乗り切りつつ、思いやりのあるケアを維持するためには、感情の認識と調整のスキルが臨床医にとって不可欠である。専門家は、緩和ケアに特有の対人要求に備えるため、教育プログラムに感情スキルの発達を組み込むべきだと指摘している。社会構成主義理論に立脚する本研究は、感情表出が文化的・社会的文脈によって形成されることも示しており、介入は文脈に即した感受性を備える必要があるとしている。一方で、限界として、インタビューが自己申告に基づくこと、ならびに感情面への関心がすでに高い参加者が選ばれている可能性による選択バイアスが挙げられる。
結論
本研究は、緩和ケアの臨床医が相談場面で感情を意識的に活用し、患者や家族との意味のあるつながりを形成する過程についての理解を深めるものである。提案された3段階モデルは、感情の認識、評価、意図的な共有が、効果的な関係構築の戦略として機能することを示している。緩和ケアの文脈に合わせた感情スキルトレーニングを統合することは、臨床医のウェルビーイング向上と患者中心のアウトカム改善に寄与する可能性がある。今後の研究では、感情の活用を形づくる組織的・文化的要因を検討するとともに、感情的コンピテンス教育が臨床実践に及ぼす長期的影響を明らかにする必要がある。
参考文献
1. Moens K, Bilsen J, Zambrano SC. Connecting Through Emotions: A Social Constructivist Grounded Theory on How Palliative Care Clinicians Use Their Emotions During Consultations. J Gen Intern Med. 2026 Jun 15. PMID: 42298201.
2. Sinclair S, Raffin-Bouchal S, Venturato L, et al. Compassion training in healthcare: what are patients’ perspectives on training healthcare providers? A scoping review. BMC Med Educ. 2020;20(1):45.
3. Gentry MT, Webster J, Godfrey KM. Emotional intelligence and empathy in palliative care clinicians: A systematic review. Palliat Med. 2019;33(5):501-512.

