注目ポイント
- 乳輪周囲切開と乳房下縁切開は、トランスジェンダー女性の豊胸術において、合併症率が同程度であることが示された。
- 二次的な美容修正手術は、乳房下縁切開群で有意に多かった。
- BREAST-Q質問票では、切開法にかかわらず、長期的な患者満足度が高かった。
- 専門的なカウンセリングのもとで患者が切開法を選択することは、ジェンダー肯定的胸部手術における個別化アプローチを支持する。
研究背景
ジェンダー肯定的手術の提供は、トランスジェンダー医療において極めて重要な要素である。なかでも豊胸術は、出生時に男性と割り当てられた人のうち、ジェンダーアイデンティティに合致した胸部女性化を目指すトランスジェンダー女性にとって、基本となる手術である。手術手技は進歩しているものの、この集団において主要な豊胸術式である乳輪周囲アプローチと乳房下縁アプローチの転帰を評価した前向き比較データは依然として限られている。これらの術式間における安全性、効果、患者満足度の相対的差を理解することは、共同意思決定と手術計画の最適化につながり、トランスジェンダー医療における質の高いケアの中核的側面に対応する。
研究デザイン
本前向き比較研究では、2016年11月から2024年12月までに一次豊胸術を受けた95人のトランスジェンダー女性を登録した。組み入れ基準として、18歳以上、BMI 30未満、ならびに内因性乳腺組織の発達を促進し手術成績を最適化するために少なくとも12か月間のホルモン療法を受けていることを条件とした。除外基準は、既往の乳房手術またはフィラー注入とし、過去の介入による交絡を排除した。
手術はすべて2名の上級術者が担当した。患者は、リスク、利益、美容上の期待について包括的な術前カウンセリングを受けた後、乳輪周囲切開または乳房下縁切開のいずれかを選択した。術後経過観察は少なくとも12か月まで行い、その時点で妥当性が確認されたBREAST-Q Version 2 Augmentation Moduleをオンラインで実施し、患者報告アウトカムとしての満足度および豊胸術に関連する生活の質を評価した。
群間比較の統計解析には、連続変数にMann-Whitney U検定、カテゴリーデータにFisherの正確確率検定を用い、有意水準は p < 0.05 とした。
主要結果
コホートは、乳輪周囲切開による豊胸術を受けた55例と、乳房下縁切開による豊胸術を受けた40例で構成された。年齢、BMI、ホルモン療法期間を含むベースラインの人口統計学的特性および臨床的特性は、切開法によるインプラントポケット位置を除き、両群で統計学的に同等であった。
全体の合併症率は3.7%と低く、乳輪周囲群と乳房下縁群の間に有意差は認められなかった。合併症には、感染、血腫、インプラント位置異常などが含まれた。一方、二次的な美容修正手術の率には明確な差がみられ、乳房下縁群では乳輪周囲群(7.5%)に比べ有意に高かった(28.6%、p=0.026)。修正の主な理由は、重大な安全性の問題というよりも、輪郭や左右対称性に関する懸念であった。
BREAST-Qの結果では、心理社会的側面、性的ウェルビーイング、乳房への満足度を含むすべての評価領域で、両切開群とも高い満足度が示された。患者報告アウトカムに有意差は認められず、切開法にかかわらず、患者視点では同等の有効性が示唆された。
専門的考察
本研究は、トランスジェンダー女性における乳輪周囲切開および乳房下縁切開のいずれも、低い合併症率と高い患者満足度を示すことを支持する重要な前向きデータを提供する。乳房下縁群で修正手術が多かった点は検討を要する。考えられる要因としては、瘢痕の可視性の違い、インプラント配置の力学的特性、あるいは乳房下縁に関連する患者の期待の相違などが挙げられる。
詳細なカウンセリング後に患者主体で切開法を選択することは、現代の患者自律性および共同意思決定の原則に合致した、個別化手術計画の一例である。乳頭乳輪複合体の大きさ、軟部組織の性状、術者の熟練度などの要因が、各アプローチの適応に影響する点も重要である。
限界としては、単施設研究であること、および2名の上級術者が手術を担当したものの、術者間差を十分に捉えきれていない可能性があることが挙げられる。より長期の追跡と多施設データは一般化可能性を高めるであろう。さらに、既往手術を除外したことで、トランスジェンダー集団で一般的な修正手術や二次豊胸術への外挿性は制限される。
結論
総括すると、乳輪周囲切開および乳房下縁切開による豊胸術はいずれも、十分なカウンセリングの後に選択された場合、トランスジェンダー女性において安全であり、患者満足度も高い。乳房下縁アプローチで二次修正が増加したことは、個別化された手術計画と患者の期待管理の重要性を示している。ここで示されたような、妥当性が確認された患者報告アウトカム評価を用いた前向き評価は、日常診療に組み込むことで、ジェンダー肯定的手術医療の継続的な改善に資する。
資金提供および臨床試験
本研究では、特定の資金提供源または clinicaltrials.gov への登録については報告されていない。
参考文献
1. Grimaud M, La Padula S, Aidan B, et al. Breast Augmentation in Transgender Women: A Prospective Comparative Study. Plast Reconstr Surg. 2026 Aug 7;PMID: 42566669.
2. Zanella VC, Romero LA, Tosi LL, et al. Gender-affirming breast surgery: a multidisciplinary approach. Clin Plast Surg. 2020;47(3):455-469.
3. Klassen AF, Pusic AL, Cano SJ, et al. The BREAST-Q: a patient-reported outcome measure for breast surgery. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2015;68(4):376-381.
4. Hembree WC, Cohen-Kettenis P, Delemarre-van de Waal HA, et al. Endocrine treatment of gender-dysphoric/gender-incongruent persons: An endocrine society clinical practice guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102(11):3869-3903.
