要点
- 現在のガイドラインでは、敗血症性ショックにおける平均動脈圧(Mean Arterial Pressure, MAP)は65 mm Hg以上が推奨されているが、腎予後を最適化するためには個別化されたMAP目標が提唱されている。
- ドプラ超音波で評価される腎抵抗指数(Renal Resistive Index, RRI)は、腎血管抵抗を反映し、急性腎障害(Acute Kidney Injury, AKI)のリスクと関連する。
- 本前向き無作為化研究では、MAPを一時的に上昇させた際の早期RRI反応性によって、腎機能の観点からより高いMAP目標の恩恵を受ける患者を同定できるかを検討した。
- MAP上昇に伴いRRIが低下した患者では、高いMAP目標による腎転帰の改善は認められなかった。一方、RRIが低下しなかった患者では、高MAPで尿量の増加が認められ、異なる血行動態―腎カップリング表現型の存在が示唆された。
研究背景
敗血症性ショックは、集中治療室(Intensive Care Unit, ICU)における急性腎障害(Acute Kidney Injury, AKI)およびそれに関連する死亡の主要な原因である。現在の国際ガイドラインでは、十分な臓器灌流を確保するため、平均動脈圧(Mean Arterial Pressure, MAP)を65 mm Hg超に維持することが推奨されている。しかし、至適MAP閾値は患者ごとに異なり、個々の心血管系および腎の自動調節応答の影響を受ける可能性がある。MAP上昇を目的とした過度の昇圧薬使用は、腎利益をもたらさないまま有害作用を引き起こし得るため、血行動態目標を個別化するためのベッドサイドツールの確立が急務である。
腎抵抗指数(Renal Resistive Index, RRI)は、腎内動脈のドプラ超音波波形から算出され、腎動脈抵抗を定量化する指標であり、重症患者におけるAKIや腎転帰と相関する非侵襲的マーカーとして注目されている。先行する観察研究では、MAP上昇によりRRIが低下し得ることが示されており、これは腎灌流圧の改善や血管拡張を反映している可能性がある。しかし、一時的なMAP負荷下でのRRI変化が、AKI予防のための治療的MAP目標設定に役立つかどうかは依然として不明である。
研究デザイン
本研究は、大学病院の内科系ICUで実施された前向き無作為化生理学研究である。対象は早期敗血症性ショックの成人患者で、ノルアドレナリン(Norepinephrine)を開始後9時間以内に0.05 µg/kg/min以上要した症例と定義し、一部は乳酸値2 mmol/L超を伴っていた。慢性腎臓病や直ちに腎代替療法(Renal Replacement Therapy, RRT)が必要な患者は除外された。
全患者に対し、標準化された2時間のMAP試験を行った。まずMAP 65~70 mm Hgを維持し、その後80~85 mm Hgへ上昇させ、RRIを反復測定した。MAP上昇時にRRIが0.05以上低下した場合をRRI responderと定義した。その後、患者はRRI反応性で層別化されたうえで、5日間の「低」MAP群(65~70 mm Hg)または「高」MAP群(80~85 mm Hg)に無作為割付された。主要腎アウトカムは、尿量、Kidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO)病期、血清クレアチニン推移、および腎代替療法の必要性であった。
主要結果
80例が登録され、そのうち29%(23/80)がRRI responderであった。responderでは、MAPを上昇させても腎アウトカムの有意な改善は認められず、尿量、KDIGO病期、腎代替療法の必要性、血清クレアチニン値はいずれも低MAP群と高MAP群で同程度であった。
一方、RRI nonresponderでは、高MAP群に割り付けられた患者で低MAP群と比較して尿量の増加が認められたが、他の腎関連指標には統計学的有意差はみられなかった。この探索的所見は、MAP上昇時にRRIが低下しないことが、高い血圧目標の恩恵を受ける可能性のある亜群を同定する手掛かりとなることを示唆している。
本研究では、早期敗血症性ショックにおいて腎保護のためにMAP目標を個別化する際、RRI反応性を頑健なベッドサイドツールとしてルーチンに用いることを支持する根拠は認められなかった。ただし、異なる生理学的反応は、敗血症性ショックにおける腎灌流動態と昇圧薬作用の不均一性を示唆している。
専門家コメント
本研究は、集中治療腎臓学における臨床的に重要な問い、すなわち敗血症性ショックで腎転帰を最適化するためにMAP目標をいかに個別化するかに取り組んでいる。直感的には魅力的であるものの、一時的なMAP変化に対するRRI反応性は、高MAP目標の利益を予測する信頼性の高い指標ではなかった。これは、65 mm Hgを超える積極的なMAP上昇に一律の優位性はないとした先行の大規模試験と整合する。ただし、高血圧の既往を有する患者集団など、一部の亜群では利益を得る可能性がある。
生理学的には、RRIは腎血管抵抗、全身血行動態、腎内コンプライアンスの影響を統合した指標であり、その解釈は複雑である。さらに、昇圧薬は灌流圧の変化とは独立して、腎血管に直接的・間接的な作用を及ぼす可能性がある。
限界として、症例数、単施設デザイン、MAP試験の短時間性が挙げられ、動的な腎適応を捉えるには不十分であった可能性がある。加えて、高MAP下でnonresponderに認められた尿量変化については、さらなる機序的検討と転帰検証が必要である。
現在の専門家コンセンサスでは、ほとんどの患者に対してMAP目標を65 mm Hg以上とすることが引き続き重視されており、個別化はRRIのみに依拠するのではなく、臨床状況、併存疾患、臓器機能に基づいて行うべきである。
結論
本生理学研究は、一時的なMAP上昇時のRRI低下が、早期敗血症性ショックにおいて腎機能改善のための高MAP目標の恩恵を受ける患者を同定しないことを示した。一方で、RRIが低下しないことは、高MAPにより尿量が改善する患者の存在を示す可能性があり、腎血行動態反応の複雑性を示唆している。敗血症関連AKIに対する個別化された血行動態目標を設定するためのベッドサイドツールを洗練させるには、さらなる研究が必要である。
研究費および ClinicalTrials.gov
本研究は大学病院の内科系ICUで実施され、施設内研究資金の支援を受けた。具体的な助成金情報および ClinicalTrials.gov 登録番号は、原著要旨では明示されていない。
参考文献
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- Beloncle F, et al. Renal resistive index: a marker of renal perfusion and outcome in AKI? Intensive Care Med. 2018;44(7):1034-1036.
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