注目ポイント
1. 前胸筋上(prepectoral)直接インプラント挿入乳房再建(direct-to-implant, DTI)は、従来の二段階インプラント再建(implant-based breast reconstruction, IBBR)と比べて、主要合併症および軽微な合併症の発生率が有意に低かった。
2. DTIを受けた患者では、乳房1件あたりの平均手術回数が1.2回であり、二段階法の2.3回より少なかった。
3. DTIでは審美的修正術の頻度が高かったが、その多くは脂肪移植などの軽微な任意手技であった。
4. 本研究は、前胸筋上再建に限定した最大規模のデータセットを提示しており、術式計画および患者説明に有用な、再建層位に特化した知見を提供している。
研究背景
インプラントを用いた乳房再建は、乳房切除術後に広く行われている術式であり、従来は2段階手順、すなわち初回の組織拡張器(tissue expander)留置後にインプラントへ交換する方法が一般的であった。乳房切除術の進歩、手術手技、材料の改良により、単回で完結する直接インプラント挿入(direct-to-implant, DTI)再建への関心が高まっている。とくに前胸筋上(prepectoral)では、インプラントを大胸筋の上に配置する。DTIの潜在的利点としては、手術負担の軽減と全体の回復期間の短縮が挙げられる。しかし、前胸筋上DTIが本当に「1回で完結する」方法として機能するのかどうか、特に再手術率や合併症の特徴が確立された2段階法と比べてどうかについては、なお不確実性が残っている。
研究デザイン
本後ろ向き研究では、2017年から2024年までに実施された前胸筋上乳房再建をすべて解析した。対象は333例、再建乳房総数552乳房であり、DTI再建229乳房、2段階IBBR 323乳房で構成された。収集データには、患者背景(例:BMI)、手術関連因子(例:乳房切除標本重量、手術適応)、および術後合併症が含まれた。合併症は、主要合併症(入院再診または再手術を要するもの)、軽微な合併症(外来で管理可能なもの)、および審美的修正(主として美容的改善を目的とした任意手技)に分類された。主要評価項目は、DTI群と2段階群における合併症率と、再建過程で必要となった総手術回数の比較であった。
主な結果
患者背景では、DTI群は2段階再建群と比べて、BMIが有意に低く(23.8 vs. 26 kg/m2, p<0.05)、乳房切除標本重量も有意に軽かった(561.1 g vs. 653.4 g, p<0.05)。さらに、DTI群では予防的乳房切除術の割合が高かった(59.4% vs. 33.7%, p<0.05)。
転帰に関しては、再手術または再入院を要する主要合併症はDTI群で7.0%と、2段階群の19.8%に比べて有意に少なかった(p<0.05)。軽微な合併症もDTIで低率であった(21.0% vs. 30.7%, p<0.05)。一方、審美的修正術はDTI後により多く認められ(15.3%)、2段階再建(5.3%)より高頻度であった(p<0.05)が、主な介入は脂肪移植であった。
重要な点として、再建全体を通じた乳房1件あたりの平均手術回数は、DTI群で1.2回、2段階群で2.3回であり(p<0.05)、単回前胸筋上アプローチにおける手術負担の有意な軽減が示された。
専門的考察
本研究は、前胸筋上直接インプラント挿入乳房再建に関する、層位を明確に区別した比較データとして有用である。合併症率の低さと必要手術回数の少なさは、適切に選択された患者において、DTIが真に実行可能な「1回で完結する」選択肢となり得ることを示している。DTI群で予防的手術の割合が高く、BMIが低かったことは転帰に影響し得るが、それでもこれらの所見は、実臨床における手術判断と患者選択基準を反映しており、臨床的意義は高い。
DTIで審美的修正率が高かった点については、その多くが脂肪移植のような軽微な介入であり、必須の是正手術ではなく任意の微調整として解釈すべきである。この区別は、患者に期待される経過や回復の見通しを説明する際に重要である。
限界としては、後ろ向き研究デザインであること、ならびにDTI群においてより健康状態が良好で、乳房サイズが小さく、予防的適応の患者に選択が偏っている可能性があることが挙げられる。今後の前向き試験では、これらの変数を統制することで一般化可能性を高められるだろう。それでも本結果は、前胸筋上インプラントに限定した初期の大規模評価の一つであり、これまでの研究で前胸筋下(subpectoral)法と前胸筋上法が混在していたことによって得られなかった、より詳細な知見を提供している。
結論
前胸筋上直接インプラント挿入乳房再建は、従来の2段階インプラント再建と比べて、主要合併症・軽微な合併症の発生率が低く、総手術回数も有意に少ない、有力な単回再建オプションである。DTIでは軽微な任意の審美的修正術がより多いものの、その性質は通常、合併症対応というより患者中心の仕上げに近い。これらの所見は、再建計画の検討に前胸筋上DTIを組み込むことを支持し、術後成績と患者満足度の最適化には、個別化された患者説明が重要であることを示している。
資金提供およびClinicalTrials.gov
本論文には、資金源または臨床試験登録に関する記載はない。
参考文献
Amro C, Boyd CJ, Hemal K, Sorenson TJ, Park J, Vernice N, Lakatta A, Cohen O, Choi M, Karp NS. One and Done? Evaluating Prepectoral Direct-to-Implant Breast Reconstruction as a Single-Stage Solution. Plastic and Reconstructive Surgery. Published 2026 Aug 17. PMID: 42606313. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42606313/