注目ポイント
- イタリアの内分泌専門医のうち、トランスジェンダーおよびジェンダー多様(TGD)患者の臨床診療に頻繁に携わっているのは8.4%にとどまった。
- 性別肯定ホルモン療法(gender-affirming hormone therapy, GAHT)を開始し、モニタリングできると感じている者は15%未満であった。
- トランスジェンダー医療に関する事前の正式な教育は、知識および臨床的自信の向上と強く関連していた。
- 90%超が追加研修への関心を示しており、体系的な教育の不足が示唆された。
研究背景
トランスジェンダーおよびジェンダー多様(TGD)の人々は、身体的特徴を性自認に一致させるために、特に性別肯定ホルモン療法(gender-affirming hormone therapy, GAHT)をはじめとする専門的な医療介入を必要とすることが多い。この集団では、転帰と心理的ウェルビーイングを改善するために、適切な内分泌診療が不可欠である。トランスジェンダーの健康ニーズに対する認識は高まりつつある一方で、多くの医療制度は、提供者側の知識や研修不足に起因する課題に直面している。イタリアでは、このような医療を提供する内分泌専門医の準備状況を定量化したデータは限られていた。
研究デザイン
Association of Medical Endocrinologists(AME)は、Italian Society for Gender, Identity and Health(SIGIS)と共同で、2023年に全国調査を実施し、登録済みAME会員(イタリアの内分泌専門医)全員を対象とした。調査では、トランスジェンダー医療に関する知識、臨床実践の傾向、GAHTの管理に関する自己申告の能力、ならびに性別肯定ケアに関する専用教育への関心を評価した。さらに、トランスジェンダー医療に関連する知識および臨床能力に影響する要因を特定するため、多変量ロジスティック回帰分析が行われた。
主な結果
合計703名の内分泌専門医が調査に回答した。主な結果は以下のとおりである。
- 回答者のうち、TGD患者の臨床管理に頻繁に関与していると報告したのは8.4%にすぎず、直接経験は限られていた。
- GAHTを開始し、モニタリングできると考えていたのは15%未満であり、臨床能力に大きなギャップが認められた。
- 性別肯定ケアに関する正式な教育・研修の既往は、より高い知識(オッズ比[OR]14.3、95%信頼区間は未提示)およびGAHT管理能力の自己評価(OR 4.4)の双方を予測する最も重要な因子として示された。
- 興味深いことに、若年の内分泌専門医では知識レベルが高かった一方で、臨床管理における能力感が必ずしも高いわけではなかった。
- 90.4%という圧倒的多数が、TGDケアについてさらに教育を受けたいと明確に回答しており、体系的な研修プログラムの緊急性が示された。
専門家コメント
本調査は、イタリアにおけるTGD当事者への内分泌診療に影響する重要な不足を浮き彫りにしており、これは国際的に観察されている課題とも一致する。事前教育と能力の強い関連は、体系的研修が果たす中心的役割を裏付けている。若年医師はトランスジェンダー医療に関する認識が高い可能性があるものの、自信の不足は、実践経験やメンタリングがなければ知識だけでは不十分であることを示唆している。内分泌学のカリキュラムおよび継続医学教育にトランスジェンダー医療を体系的に組み込むことにより、この課題への対応が可能である。
本研究の限界として、より関心や知識の高い臨床医ほど参加しやすかった可能性があり、回答バイアスが生じた可能性がある。また、本結果は、プライマリ・ケアや精神科など、TGDケアに関与する他の診療科へそのまま外挿できない可能性がある。
結論
イタリアの内分泌専門医が、十分な能力を備えてトランスジェンダー医療を提供できる準備状況は、現時点では不十分である。このギャップは、GAHTを必要とするTGD集団の医療の質およびアクセスに直接的な影響を及ぼす。内分泌専門医の専門性、自信、ひいては患者転帰を向上させるためには、包括的かつ標準化された教育プログラムの導入が不可欠である。これらの取り組みは、より広範な医療の公平性と包摂性の目標にも合致する。
参考文献
- Parazzoli C, Delbarba A, Scala A, et al. The Gap in Endocrinological Care for Transgender and Gender-Diverse Individuals: An Italian Survey. J Clin Endocrinol Metab. 2026 Sep 10. doi:10.1210/jc.42721289
- Wylie K, Barrett J, Besser M, et al. Good Practice Guidelines for the Assessment and Treatment of Adults with Gender Dysphoria. Sexual and Reproductive Healthcare. 2014;5(2):95-101.
- Hembree WC, Cohen-Kettenis PT, Gooren L, et al. Endocrine Treatment of Gender-Dysphoric/Gender-Incongruent Persons: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102(11):3869-3903.
