PREBOTPilot試験:オッディ括約筋へのボツリヌス毒素注入は遠位膵切除術後の膵瘻予防に失敗

PREBOTPilot試験:オッディ括約筋へのボツリヌス毒素注入は遠位膵切除術後の膵瘻予防に失敗

注目ポイント

  • 遠位膵切除術(Distal Pancreatectomy, DP)を受ける患者に対する、術前の内視鏡下ボツリヌス毒素(botulinum toxin, BTX)によるオッディ括約筋(sphincter of Oddi, SO)への注入は、安全かつ実施可能であった。
  • BTX注入は、対照群と比較して、臨床的に関連する術後膵瘻(postoperative pancreatic fistula, POPF)のB/Cグレード、または30日死亡率を低下させなかった。
  • PREBOTPilot無作為化比較試験は、中間解析の結果、無益性のため予定より早期に中止された。
  • 本結果は、DP後のPOPF予防としてSOへのBTX注入を日常診療で用いることを支持しない。

研究背景

術後膵瘻(POPF)は、遠位膵切除術(DP)後にみられる最も頻度が高く重篤な合併症の一つであり、発生率は最大30%に達する。POPFは入院期間の延長、二次性出血や感染などの有意な罹患、さらには死亡につながることもある。そのため、膵外科におけるPOPF予防戦略の確立は、依然として満たされていない重要な臨床課題である。 オッディ括約筋(SO)は、膵液の十二指腸への流出を調節する。ボツリヌス毒素(BTX)注入によりSOを薬理学的に弛緩させることで、膵排液を促進し、吻合部または切離部位における圧較差を低減して、瘻孔形成リスクを下げられる可能性が提唱されてきた。初期の観察研究では、DP後のPOPF予防に有望な手技と示唆されたが、厳密な無作為化エビデンスは不足していた。

研究デザイン

PREBOTPilot試験は、2020年3月から2023年8月にかけて実施された、単施設、第II相、無作為化比較、非盲検試験である。基礎疾患を問わず、待機的に初回の遠位膵切除術を予定していた適格成人患者を、術前にSOへ内視鏡下BTX注入を受ける群、または術前介入を行わない対照群に、1:1で無作為割付した。 介入群には、手術3〜10日前にSOへ100単位のBTXを内視鏡下に注入した。対照群には、括約筋を標的とした術前治療は行わなかった。主要評価項目は、DP後30日以内の臨床的に関連するPOPFのB/Cグレード、および/またはあらゆる原因による死亡を複合したものであった。副次評価項目には、安全性、実施可能性、術後合併症、死亡率が含まれた。

主要所見

計50例が登録され、介入群26例、対照群24例であった。介入群の全例でSOへのBTX注入は成功し、手術前の中央値は6日(四分位範囲5〜8日)であった。介入後膵炎や注入に関連した有害事象は認められなかった。 最終的に、両群を合わせて41例(82%)に遠位膵切除術が施行された。主要評価項目である臨床的に関連するPOPF(B/Cグレード)は、BTX群21例中6例(28.6%)、対照群20例中3例(15%)で認められたが、その差は統計学的に有意ではなかった(P=0.294)。POPFに起因する術後膵切除後出血による死亡が1例、介入群で発生した。 有益性を示す傾向が認められず、イベント発生率も踏まえ、試験のデータモニタリング委員会は、予定登録数60例に達する前に、無益性のため早期中止を勧告した。したがって、本介入は安全かつ実施可能ではあるものの、POPFの発生率または重症度を低減する効果は認められなかった。

専門家による考察

SOへのBTX注入の理論的根拠は、薬理学的に誘導された括約筋弛緩により膵液流出が改善し、膵管内圧が低下することで、DP後のPOPF形成に寄与する機械的負荷を軽減できるという仮説に基づいていた。しかし、PREBOTPilot試験の結果は、臨床現場におけるこの機序仮説に疑問を投げかけるものである。 陰性結果の背景には、いくつかの要因が考えられる。BTXにより誘導される括約筋弛緩の程度や持続時間が、術後膵液流出における重要な期間に対して不十分または一過性であった可能性がある。さらに、POPFの病態は多因子性であり、膵管内圧のみならず、膵実質の硬さ、膵管径、手術手技、患者の併存疾患なども関与するが、BTX注入ではこれらを是正できない。重要な点として、本試験では術前BTX注入の安全性が確認され、手技関連膵炎は認められなかったことから、研究目的での実施可能性が支持された。 先行する小規模研究や症例集積では有益性が示唆されていたが、無作為化データがないため臨床導入は限定的であった。本試験は厳密な比較試験として、SOへのBTX注入を瘻孔予防のための日常診療に組み込むべきではないことを示す重要な証拠を提供した。今後は、他の薬理学的標的戦略や、より最適化された外科手技の検討が期待される。

結論

PREBOTPilot無作為化比較試験は、遠位膵切除術後において、術前の内視鏡下ボツリヌス毒素のSOへの注入が、臨床的に関連する術後膵瘻の発生率や30日死亡率を低下させないことを示した。本介入は安全かつ実施可能であるものの、POPF予防における臨床的利益は認められず、標準治療として採用すべきではない。本結果は、POPF発症機序の複雑さを示しており、多因子に基づく予防戦略の継続的研究の必要性を強調している。

資金提供と試験登録

本研究はドイツの単一施設で実施された。資金提供元または試験登録番号に関する詳細は、原著では明記されていない。本試験は、臨床研究における倫理基準に従って実施された。

参考文献

1. Mack CE, Klotz R, Klaiber U, et al. Preoperative Injection of Botulinum Toxin Into the Sphincter of Oddi Does Not Prevent Pancreatic Fistula After Distal Pancreatectomy: The Randomized Controlled PREBOTPilot Trial. Ann Surg. 2026 Oct 15. PMID: 42875865. 2. Bassi C, Marchegiani G, Dervenis C, et al. The 2016 update of the International Study Group (ISGPS) definition and grading of postoperative pancreatic fistula: 11 years after. Surgery. 2017;161(3):584-591. 3. Hackert T, Büchler MW. Surgical treatment of pancreatic cancer: Minimally invasive approaches, intraoperative radiation therapy, and future directions. J Gastrointest Surg. 2017;21(1):54-58. 4. Diener MK, Seiler CM, Rossion I, et al. Efficacy of techniques to reduce delayed gastric emptying after pancreaticoduodenectomy: A systematic review and meta-analysis. Ann Surg. 2017;266(3):356-365.

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