注目ポイント
- 早期の専門的緩和ケアは、腹部がんに対する根治手術を受ける患者において、死亡率や終末期の質指標を改善しなかった。
- 評価項目には、終末期近傍の化学療法、ホスピス在院日数、自宅で緊急受診なしに過ごした日数、死亡場所、介護者の認識が含まれた。
- 本研究は、このような外科患者に対して専門的緩和ケアを routine に導入する必然性は高くなく、医療資源の配分は個別化すべきであることを示唆する。
研究背景
進行がん患者では、緩和ケアの早期統合により、QOL(Quality of Life)の向上、介護者負担の軽減、資源利用の適正化、さらには生存期間延長といった利益が示されている。一方で、根治的治療を目的としてがん手術を受ける患者における早期緩和ケアの役割はなお不明である。最近の2件の臨床試験では、この集団において術後90日時点で有意な利益は認められず、専門的緩和ケアを routine に関与させる意義が問い直されている。手術直後を超えた終末期(EOL: end-of-life)アウトカムに対する緩和ケアの影響を理解することは、ケアの経路と資源配分を最適化するうえで重要である。
研究デザイン
Surgery with Option of Palliative Care Expert(SOPE)試験は、大都市圏の大学病院で実施された、無作為化・評価者盲検対照試験であった。腹部がん8種のいずれかに対して根治を目的とした手術を受ける235例が登録された。参加者は、通常の外科治療群、または緩和ケア専門職の早期介入群に無作為化された。介入は、早期の症状緩和、心理社会的支援、アドバンス・ケア・プランニングの提供を目的とした。患者は術後3年間追跡され、追跡期間中に死亡した患者については、EOLアウトカム評価のため介護者調査が行われた。
主要評価項目は以下のとおりであった。
- 3年死亡率(がん種で調整したCox比例ハザードモデルを用いて解析)
- 生涯最後の2週間における化学療法の使用
- ホスピス在院日数
- 生涯最後の30日間に、救急外来(ED: emergency department)受診なしで自宅で過ごした日数
- 医療施設外での死亡
- Family Assessment of Treatment at End of Life-Short Version(FATE-S)調査票で測定した、介護者によるEOLケアの質の評価
連続変数のアウトカムには未調整の比例オッズロジスティック回帰を、二値アウトカムには未調整ロジスティック回帰を用いた。
主な結果
無作為化された235例(介入群117例、通常ケア群118例)のうち、3年時点で93例(40%)の死亡が記録された。介護者データは死亡した61例(介入群32例、通常ケア群29例)で完了しており、死亡例に対する回答率は66%であった。
死亡率については、群間に有意差は認められなかった(ハザード比[HR]1.14、95%信頼区間[CI]0.85–1.51、P=.39)。また、介入群では他のEOL指標にも統計学的に有意な改善は示されなかった。
- 生涯最後の2週間の化学療法:オッズ比(OR)5.19、95% CI 0.57–47.32、P=.14(点推定値は高いが、CIが広く不確実性が大きい)
- ホスピス在院日数:OR 0.67、95% CI 0.27–1.66、P=.38
- ED受診なしで自宅にいた日数:OR 0.96、95% CI 0.39–2.36、P=.93
- 医療施設外での死亡:OR 0.82、95% CI 0.30–2.25、P=.71
- FATE-Sによる介護者スコア:OR 0.81、95% CI 0.32–2.03、P=.65
したがって、生存、臨床、主観的アウトカムのいずれにおいても、本試験では手術領域における早期緩和ケアの測定可能な利益は示されなかった。
専門家コメント
本探索的解析は、SOPE試験および関連研究の既報と整合しており、根治的外科腫瘍学に緩和ケアを統合することの複雑さを浮き彫りにしている。転移性がんや非外科的な進行がんで早期緩和ケアが示す典型的な利点は、大規模手術を根治目的で受ける患者にはそのまま当てはまらない可能性がある。背景には、手術対象となるがん患者の予後が不均一であること、ならびに術後の症状負担や苦痛の推移が患者ごとに異なることなど、複数の要因が関与していると考えられる。
限界として、サンプルサイズが比較的小さいこと、介護者追跡が不完全であることが挙げられ、微細な効果を検出する統計学的検出力を低下させる可能性がある。とくにEOL近傍の化学療法ではCIが広く、不確実性および変動の可能性を示している。さらに、緩和介入の具体的な構成要素や導入時期が有効性に影響する可能性があり、どの外科患者が最も利益を得やすいかを同定する精緻化が必要である。
現行の臨床ガイドラインでは、著明な症状や心理社会的ニーズを有する進行がん患者に対して早期緩和ケアを推奨している。本研究は、根治的腹部がん切除を受ける患者について、専門的緩和ケアへの紹介を routine ではなく選択的に行うことを、臨床医および医療システムに示唆するものであり、限られた緩和ケア資源のより適切な配分に資する。
結論
無作為化比較試験の設定において、早期の専門的緩和ケアは、腹部がんに対する根治手術を受ける患者の3年死亡率や複数の重要なEOL質指標を改善しなかった。これらの所見は、この集団における早期緩和ケアの routine な統合に疑問を投げかけるものであり、患者のニーズと症状負担に基づく個別化・症例別アプローチを支持する。外科がん患者に対して、資源効率を損なうことなく利益を最大化する緩和ケア提供戦略を最適化するため、さらなる研究が求められる。
資金提供および試験登録
SOPE試験は都市部の大学病院で実施されたが、資金提供および試験登録の詳細は抄録では明示されていない。
