注目点
Rome V国際疫学調査により、gut-brain interaction disorder(Disorders of Gut-Brain Interaction, DGBI)の有病率は15か国で検証・更新され、Rome IVの結果と高い整合性を示した。主な結果として、世界全体で少なくとも1つのDGBIを有する有病率は40.9%であり、女性に多く、年齢とともに有病率が低下した。また、新たに2つのDGBI病型、すなわち腹部片頭痛(abdominal migraine)およびげっぷ不可能症候群(inability to belch syndrome)が特定され、いずれも一定の発生率を示した。
研究背景と疾患負担
gut-brain interaction disorder(Disorders of Gut-Brain Interaction, DGBI)は、以前は機能性消化管障害と呼ばれていた疾患群であり、日常的な臨床検査では明らかな構造的異常や生化学的異常を認めないにもかかわらず、慢性的な消化器症状を呈することを特徴とする。これらの疾患は生活の質を著しく低下させ、医療利用を増加させ、世界的に大きな社会経済的負担をもたらす。Romeの診断基準は歴史的にDGBIの診断・分類の標準として用いられており、Rome IV基準は2016年以降広く受け入れられてきた。しかし、臨床知識の進展と方法論の向上を受け、DGBIの病態生理と症状パターンに関する現在の理解を反映するため、更新版であるRome V基準が策定された。
DGBIの疫学を世界レベルで理解することは、保健政策の立案、資源配分、ならびに患者管理戦略の最適化にとって重要である。Rome FoundationのGlobal Epidemiology Studyは、標準化された方法論を用いて、DGBIの有病率、人口統計学的要因、臨床的特徴に関する貴重なデータを提供している。今回公表されたRome V基準は、これらの疫学推定値を更新し、Rome IV基準との比較可能性および妥当性を評価する機会を与えた。
研究デザイン
本研究は、インターネットを介して実施された頑健な集団 ভিত্তの横断調査であり、地理的・文化的背景の異なる15か国から成人28,771例を登録した。研究では、新たに作成されたRome V診断質問票を用い、25種類の疾患を含む更新基準に基づいてDGBIを同定した。有病率推定値は、同様の対象集団および方法論を用いたRome IV Global Epidemiology Studyの結果と比較された。
多変量ロジスティック回帰分析により、主要な人口統計学的変数(性別、年齢)とDGBI診断との関連が解析され、さらにこれらの疾患に関連し得る臨床因子が検討された。大規模サンプルと多国籍デザインにより、結果の一般化可能性は高いと考えられた。
主要結果
主要評価項目は、Rome V基準を用いた少なくとも1つのDGBIの世界有病率が40.9%であり、Rome IVで観察された40.5%とほぼ一致したことであった。この極めて高い一貫性は、症状定義や診断閾値が更新されても、両基準の信頼性および臨床的妥当性が維持されていることを示している。
また、DGBIの有病率は男性より女性で有意に高く、年齢とともに低下するという従来の知見が再確認された。これは、DGBIの発症や症状報告に影響し得るホルモン的、心理社会的、あるいは神経生物学的要因の存在を示唆する。
Rome Vにおける各解剖学的分類の主な疾患の有病率は以下のとおりであった。
- 食道障害:機能性嚥下障害が4.1%で最も多く、器質的病変を伴わない嚥下困難を示した。
- 胃・十二指腸障害:機能性ディスペプシアが8.1%で最も多く、慢性的な上腹部不快感または疼痛を特徴とした。
- 腸障害:分類不能の腸障害が9.6%で最も高頻度であり、慢性便秘(8.9%)および過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome, IBS)(8.5%)がそれに続いた。
- 肛門直腸障害:直腸痛の短時間発作を特徴とするプロクタルギア・フガックスが7.3%で認められた。
特に、Rome Vで新たに定義された2つのDGBIは、集団レベルで初めて評価された。
- 腹部片頭痛:自律神経症状を伴うことの多い反復性の正中腹痛として現れる特異的な機能性障害で、有病率は5.1%であった。
- げっぷ不可能症候群:食道または胃からガスを排出できない病態で、有病率は1.4%であった。
これらの結果は、DGBIとして認識される疾患スペクトラムを拡大し、新たな病型を診断枠組みに組み込む重要性を示している。
専門家の見解
Rome IVとRome Vの間で観察された有病率の持続的な一致は、DGBIが世界人口の相当な割合に影響を及ぼしているという理解を強化し、継続的な臨床的注目と研究の必要性を示している。腹部片頭痛やげっぷ不可能症候群のような新規疾患の組み込みは、消化管―脳軸の破綻に対する表現型分類の進展を意味する。
これらのデータは、臨床医および研究者が多様で、しばしば見逃されやすいDGBIの病態に注意を払い、患者評価において生物・心理・社会モデルを考慮することを促している。疫学パターンの一貫性は、疫学研究および臨床現場のいずれにおいてもRome IVまたはRome Vのいずれの基準も使用可能であることを支持するが、Rome Vはより精緻な診断上の明確化をもたらす可能性がある。
本研究の限界として、インターネットベースの自己申告データに依存している点が挙げられ、選択バイアスや症状報告の不正確さの影響を受ける可能性がある。ただし、大規模サンプルと多国籍の代表性がこれらの懸念をある程度軽減している。診断の安定性および自然経過を検討するためには、臨床的検証と縦断研究を含むさらなる妥当性確認が必要である。
結論
Rome V Global Epidemiology Studyは、更新された診断定義にもかかわらず、DGBIの世界的高有病率と臨床負担を前回のRome IVデータとほぼ一致する形で強固に पुष्टिした。この検証により現時点の有病率推定への信頼性が高まり、臨床実践、疫学研究、保健政策における有用性が支持される。新たに定義されたDGBIの認識は臨床スペクトラムを拡大し、gut-brain interaction disorderに関する理解の進展を示している。今後は、診断精度の向上、病態生理の解明、ならびにこれらの高頻度疾患による世界的影響を軽減するための個別化治療の開発に重点を置くべきである。
資金提供と臨床試験
本研究は、機能性GI疾患に関する知識の発展を目的とする非営利団体であるRome Foundationの支援を受けた。特定の臨床試験登録は報告されていない。
参考文献
1. Sperber AD, et al. Rome V global epidemiology and validation survey: prevalence of disorders of gut-brain interaction and comparison with the Rome IV global epidemiology study. Gut. 2026;75(10):1887-1897. PMID: 42613194.
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