注目ポイント
1. 成人の脳室腹腔シャント(Ventriculoperitoneal Shunt, VP Shunt)を留置した患者が緊急一般外科手術を受ける場合、ほとんどの症例でシャント温存は実施可能かつ安全であった。
2. 術後30日以内の脳室腹腔シャント感染率は低く(4.4%)、創部汚染がかなり高度であっても同様であった。
3. 感染発症後にシャント抜去を行った症例では、明らかな不利益を伴わず良好な転帰が得られた。
4. 緊急腹部手術の約半数で低侵襲手術アプローチが用いられており、この複雑な患者集団においても実施可能であることが示唆された。
研究背景
脳室腹腔シャント(Ventriculoperitoneal Shunt, VP Shunt)は、脳室系から腹腔へ髄液を導くことで水頭症の管理に広く用いられている。しかし、既にVPシャントが留置されている患者が緊急腹部手術を要する場合、腹腔内汚染に起因するシャント関連感染のリスクが懸念される。シャント感染は重篤な神経学的後遺症を来し、長期治療を要することがある。小児データや待機手術に関するガイドラインは存在する一方で、成人の緊急一般外科手術における術中・周術期のシャント管理を指針づけるエビデンスは乏しい。
本研究は、創部汚染の程度や感染リスクが症例ごとに異なる緊急腹部介入という臨床的に重要な状況において、成人のシャント管理戦略の転帰を解析し、この知識ギャップを埋めることを目的とした。
研究デザイン
本研究は、2000年から2025年までの25年間に単施設で実施された後ろ向きコホート研究である。対象は、既存のVPシャントを有し、緊急一般外科手術を受けた18歳以上の成人患者であった。手術適応は主として胆道、小腸、および虫垂病変であった。手術アプローチは、低侵襲手術または開腹手術のいずれかであった。
主要評価項目は、術後30日以内のVPシャント感染の発生であった。感染評価は、Centers for Disease Control and Prevention(CDC)の手術創分類に基づき、Class I(清潔)からClass IV(汚染・感染)までの区分と関連づけて行われた。また、シャントバルブの種類、抗菌薬含浸カテーテルの有無、ならびに術中のシャント管理戦略(維持 vs. 抜去)に関するデータも収集・解析された。
主な結果
コホートは45例の成人患者から構成され、年齢中央値は63歳、男性は62.2%であった。手術内容は、胆道疾患が35.6%、小腸疾患が20%、虫垂疾患が17.8%を占めた。低侵襲手術は42.2%の症例で施行された。
最も多く報告された創部分類はClass II(清潔汚染)で、44.4%を占めた。Class III(汚染)およびClass IV(汚染・感染)は、それぞれ28.9%、17.8%であった。
44例でシャント管理データが利用可能であり、84.1%では緊急手術中にVPシャントが温存された。可変圧弁は46.7%の患者に認められ、抗菌薬含浸カテーテルは64.4%で使用されており、感染抑制に寄与した可能性がある。
術後30日以内のVPシャント感染率は4.4%と低率であった。シャント感染は2例に認められ、1例は創部分類Class IIIの汚染を伴う腹腔鏡下虫垂切除後、もう1例はClass II基準の経皮内視鏡的胃瘻造設(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy, PEG)後であった。いずれの患者も、感染診断後速やかにシャント抜去が行われた。
特筆すべきことに、シャント抜去後の管理(抗菌薬治療および一時的脳室ドレナージを含む)は良好に忍容され、神経学的合併症は記録されなかった。なお、1例はシャント再留置前に他因死したが、この患者群の臨床的複雑さを示している。
専門家コメント
本研究は、成人の緊急腹部手術中にVPシャントを維持することは、多くの症例で実施可能であり、創部汚染が比較的高度な症例でも感染リスクが低いことを示している。可変圧弁および抗菌薬含浸カテーテルの併用は、感染率低下に寄与している可能性がある。シャント感染により抜去が必要となった症例はあるものの、適時の介入は有効であり、不良転帰は認められなかった。
限界として、後ろ向き研究であること、単施設研究であることから、一般化可能性に影響し得る。また、症例数が比較的少ないこと、手術適応および手術アプローチの異質性も、結果を外挿する際に考慮すべきである。今後は前向き多施設研究により、最適な実践を明確化し、標準化されたプロトコルを検討することが望まれる。
現行の外科ガイドラインでは、成人の緊急腹部手術時のVPシャント管理に関する具体的推奨が不足しており、本エビデンスは、感染リスクとシャント抜去に伴う罹患負担のバランスを考慮した臨床判断に有用である。
結論
本25年間の後ろ向き解析により、成人の緊急腹部手術におけるシャント温存は、術後VPシャント感染の発生率が低いことと関連していた。これらの所見は、術中における保存的管理戦略を安全に適用でき、シャント抜去は感染確定例に限定し得ることを示唆する。抗菌薬含浸カテーテルおよび可変圧弁の使用は、患者安全性をさらに高める可能性がある。これらの結果は外科診療の実践に資する基盤を提供し、管理アルゴリズムを洗練するための前向き研究の必要性を示している。
資金提供およびClinicalTrials.gov
原著論文では、資金源または前向きレジストリ登録の有無は明記されていない。
参考文献
1. Iqbal A, Elgohary MM, Caravantes Armas RA, et al. Ventriculoperitoneal shunt management strategies during emergency abdominal surgery: A retrospective cohort analysis. Surgery. 2026 Sep 3;110623. PMID: 42800757.
2. Tuli S, Drake J, Lawless M, et al. Infection rates in ventriculoperitoneal shunts in adults: a systematic review. Neurosurg Focus. 2018;45(2):E9.
3. Centers for Disease Control and Prevention. Surgical Site Infection (SSI) Event. CDC; 2017.
4. Stretton M, Laing RJ, Pickard J. Management of ventriculoperitoneal shunts in abdominal surgery: a review. Neurosurg Rev. 2019;42(4):957-972.
