甲状腺全摘術における副甲状腺温存のための近赤外自家蛍光評価:前向き無作為化試験の長期成績

注目ポイント

・近赤外自家蛍光(Near-infrared autofluorescence, NIRAF)画像は、甲状腺全摘術中の副甲状腺の同定を向上させた。
・可視化は改善したものの、NIRAFは術後3か月および12か月の副甲状腺機能低下症の発生率を有意には低下させなかった。
・サブグループ解析では、中心頸部リンパ節郭清を伴う症例で有益性が示唆された。
・NIRAFの使用は手術時間を延長せず、生化学的指標にも悪影響を及ぼさなかった。

研究背景

術後副甲状腺機能低下症は、甲状腺全摘術後に最も多くみられる合併症であり、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)分泌低下により低カルシウム血症を来す。臨床症状は軽度の症状から重度の神経筋興奮性亢進まで幅広く、継続的なカルシウムおよびビタミンD補充を要することがある。術中に副甲状腺機能を温存することは、このリスクを最小化するうえで極めて重要である。

従来法では、術者による肉眼的同定と慎重な組織操作に依存している。しかし、副甲状腺の偶発的損傷や摘出は依然として少なくなく、一過性または永続的な副甲状腺機能低下症の一因となっている。

近赤外自家蛍光画像は、近赤外光下での副甲状腺組織本来の蛍光特性を利用し、外因性染料を用いずに術中リアルタイム可視化を可能にする可能性がある。この技術は、副甲状腺の温存を促進し、術後転帰を改善する手段として注目されている。

研究デザイン

本前向き無作為化臨床試験は、デンマークの2施設で実施された。甲状腺全摘術を予定した189例を、近赤外自家蛍光画像を併用して手術を受ける群と、併用しない群に無作為割付した。

データ収集では、術前、術後1日目、ならびに術後1、3、9、12か月時点で、イオン化カルシウムと副甲状腺ホルモンを連続測定した。副甲状腺機能低下症は、以下の3基準で定義した。(1) European Society of Endocrinologyのガイドライン、(2) イオン化カルシウム<1.15 mmol/L、(3) 副甲状腺ホルモンが下限基準値未満。

主要評価項目は、手術後3か月および12か月時点の副甲状腺機能低下症発生率とした。副次評価項目には、同定された副甲状腺の数、手術時間、signal-to-background fluorescence ratio、およびPTH/イオン化カルシウム比を含めた。

主要結果

無作為化された189例のうち、93例が近赤外自家蛍光(NIRAF)補助下で手術を受け、96例は対照群であった。主要評価項目に有意差は認められず、術後3か月の副甲状腺機能低下症発生率は、NIRAF群15.6%、対照群16.9%であった(p=0.97)。また、採用した全ての定義における術後12か月の発生率にも差はなかった。

重要な点として、術中に同定された副甲状腺の平均数は、対照群(2.8腺)に比べてNIRAF群(3.1腺)で有意に多かった(p=0.045)。可視化された副甲状腺のsignal-to-background fluorescence ratioは、最大値2.3、平均1.9であり、本技術が腺の可視化を高めることが確認された。

NIRAF技術の使用により手術時間が有意に延長することはなかった。さらに、PTH/イオン化カルシウム比にも群間差は認められず、介入による生化学的な有害影響は示されなかった。

なお、術後3か月時点でカルシウムおよびビタミンD補充を必要とした患者の割合は対照群で高かった(71.8%対59.0%)が、この差は統計学的有意には至らなかった(p=0.16)。

サブグループ解析では、中心頸部リンパ節郭清を伴う甲状腺全摘術においてNIRAFの有益性がより大きい傾向が示され、より複雑な手術状況では可視化の改善が副甲状腺温存の向上につながる可能性が示唆された。

専門家コメント

本試験は、近赤外自家蛍光が術中の副甲状腺の同定および可視化能力を高めることを強固に示したが、その結果は、中期または長期追跡における副甲状腺機能低下症発生率の明確な低減には結びつかなかった。

考えられる理由として、同定精度は向上しても、腺への偶発的な熱損傷、血管損傷、機械的損傷はなお起こり得ることが挙げられる。さらに、自家移植や個々の患者差など、他の要因も副甲状腺機能に影響する。

現時点では、European Society of Endocrinologyをはじめとする専門ガイドラインは、副甲状腺温存の要として、緻密な手術手技を重視している。NIRAFは、特に複雑な手術で補助的手段として有用である可能性があるが、術者の技量に代わるものではない。

本研究の限界として、サンプルサイズの制約に加え、微細な有益性が存在しても検出できなかった可能性、特に特定の患者サブグループでは検出力が不足していた可能性がある。今後は、より大規模な多施設研究と費用対効果評価が求められる。

結論

本厳密な2施設無作為化試験により、近赤外自家蛍光は、甲状腺全摘術中の副甲状腺同定を有意に改善し、手術時間を延長せず、かつ副甲状腺機能の生化学的指標にも影響を及ぼさないことが確認された。しかし、術後3か月および12か月における副甲状腺機能低下症の発生率は有意には低下しなかった。

明確な臨床的利益が得られる患者群や手術状況が今後明らかになるまでは、甲状腺全摘術におけるNIRAFのルーチン使用を標準的手技として確立するには至っていない。術者は、個々の臨床状況に応じた術中補助を併用しつつ、実績のある温存手技を引き続き最優先すべきである。

資金提供および登録

本研究はデンマークの2施設で実施され、原著論文に記載された通りの資金提供および施設支援を受けた。臨床試験登録の詳細は、引用したPubMed記録で確認できる。

参考文献

Andersen AO, Christensen A, Lykke E, et al. Near-infrared autofluorescence parathyroid imaging during total thyroidectomy to reduce the rate of postoperative hypoparathyroidism: A prospective two-center randomized clinical trial with a comprehensive long-term follow-up. Surgery. 2026 Jul 16;198:110454. PMID: 42744538. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42744538/

Alvarez F, Lombardi CP, D’Amore A, et al. Intraoperative identification and preservation of parathyroid glands: role of autofluorescence imaging. Endocrine. 2021;73(2):298-306.

Hyun SM, Kim S, Kim YA. Effectiveness of Near-Infrared Autofluorescence Imaging for Parathyroid Gland Identification during Thyroid and Parathyroid Surgery: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Surg Oncol. 2020;27(13):4709-4718.

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