注目ポイント
– 心筋ブリッジ(Myocardial Bridge, MB)は、閉塞性冠動脈疾患がない患者でも狭心症の原因となりうる。
– 機能的に有意なMBに対する外科的アンルーフィングは、長期的な症状緩和とQOL(Quality of Life)の改善をもたらす。
– 傾向スコアマッチング解析により、MBによる難治性狭心症に対しては、薬物療法よりも手術のほうが優れた利益を示すことが示された。
– 最大限の薬物療法に反応しない重症狭心症かつ機能的に有意なMBを有する患者では、外科的介入を検討すべきである。
研究背景
心筋ブリッジ(Myocardial Bridge, MB)は、心外膜冠動脈の一部が心筋線維束の下を走行する先天性冠動脈異常である。この異常は左前下行枝(Left Anterior Descending Artery, LAD)にしばしば認められる。一般には良性とみなされることが多いが、MBは、特に冠動脈造影上、非閉塞性である場合に、狭心症を含む虚血症状を引き起こしうる。
狭心症を有し、かつ非閉塞性冠動脈を呈する患者(Angina with Non-Obstructive Coronary Arteries, ANOCA)は、治療選択肢が限られているため臨床的に難渋する。機能的に有意なMBが存在すると、動的圧迫および異常な冠動脈血行動態により虚血と難治性狭心症を来すことがある。β遮断薬、カルシウム拮抗薬、硝酸薬を含む最大限の薬物療法を行っても、なお高度な症状が持続する患者も少なくない。
外科的アンルーフィングは、上被する心筋線維を切除して動脈圧迫を解除する手技であり、短期的な症状およびQOLの改善が報告されている。しかし、長期的な臨床転帰および症状改善効果は十分には明らかでなく、この前向き研究が実施された。
研究デザイン
本前向き観察研究では、症候性MBに対して外科的アンルーフィングを受けた成人患者218例を、中央値5年(範囲:3~9年)追跡した。組み入れ基準として、機能的に有意なMBが必要であり、ドブタミン負荷拡張期 Fractional Flow Reserve(diastolic fractional flow reserve, dFFR)および/または安静時 Full-cycle ratio(RFR)≤ 0.76 と定義した。術前の包括的評価には、負荷心エコー、冠動脈CT血管造影(Coronary Computed Tomography Angiography, CCTA)、侵襲的冠動脈造影、および血管内超音波を含め、MBの存在と機能的有意性を確認した。
Seattle Angina Questionnaire(SAQ)を用いて、ベースラインおよび追跡期間中の患者報告による狭心症症状とQOLを評価した。さらに、比較有効性を検討するため、傾向スコアマッチングにより、外科治療を受けた65例と、ベースライン特性および機能的に有意なMBが類似し、薬物療法を継続した非外科対照65例を比較した。
主要結果
縦断的追跡により、外科的アンルーフィング後、SAQの全評価項目で有意かつ臨床的に意味のある改善が認められた。評価項目には、身体的制限、狭心症の安定性、狭心症頻度、治療満足度、およびQOLが含まれた。SAQ総合スコアも著明に改善した。


(A) Left anterior descending artery with an MB on coronary angiography and corresponding longitudinal IVUS. IVUS map showing the left anterior descending artery with an MB on coronary angiography with longitudinal IVUS. The green dotted line represents the MB. S1–S9 are septal perforators. D1–D3 are diagonal branches. (B) Arterial compression, MPB, and halo thickness on IVUS. (i) End-diastolic and end-systolic IVUS with 58.3% arterial compression. (ii) MPB of 21.4% and maximal MB halo thickness of 1.39 mm, MLA of 1.60 mm2 located within the MB (asterisk). The blue arrows point to the location of the MPB, maximum halo thickness, and MLA on longitudinal IVUS (iii). LCX, left circumflex artery; MB, myocardial bridge; IVUS, intravascular ultrasound; Max PB, maximum plaque burden; MLA, minimal lumen area; VA, vessel area
マッチド非外科群と比較すると、外科的アンルーフィングを受けた患者では、身体的制限(+27.8対+11.4、P = .004)および狭心症頻度(+30対+20、P = .01)の改善がより大きかった。これらの改善は、長期的な機能的能力の向上と症状負担の軽減につながった。
追跡期間中、手術手技に関連する重大な安全性上の懸念は報告されなかった。持続的な症状緩和は、MBに起因する難治性狭心症に対する耐久性のある治療として外科的アンルーフィングを支持するものである。
専門的コメント
これらの所見は、狭心症と非閉塞性冠動脈を呈する患者において、機能的に有意なMBを同定することの臨床的重要性を示している。dFFRやRFRのような高度な血行動態指標を慎重に用いることで、外科的介入の恩恵を受けうる候補患者の選択が可能となる。
薬物療法が第一選択であることに変わりはないが、最大限の薬物管理にもかかわらず症状が持続する場合には、外科的アンルーフィングを検討すべきである。重要なのは、本研究で観察された長期的な症状改善が、短期的な改善を示した先行の小規模研究と整合しており、本手技の持続的価値に対する確信を高める点である。
限界として、非ランダム化デザインに内在する選択バイアスの可能性、および比較解析におけるマッチドコホートが比較的小規模であることが挙げられる。より大規模なランダム化比較試験により、これらの所見はさらに検証される必要がある。加えて、主要心血管有害事象および生存への影響を評価するには、より長期の追跡が必要である。
結論
難治性狭心症を有し、非閉塞性冠動脈を呈する患者における機能的に有意な心筋ブリッジに対する外科的アンルーフィングは、中央値5年の追跡期間にわたり、症状およびQOLの有意かつ持続的な改善と関連していた。最適な薬物療法にもかかわらず狭心症が持続する患者に対して、外科的修正は有用な治療選択肢となる。
包括的画像評価および侵襲的生理学的評価によって機能的に有意なMBを同定することは、治療方針の決定に不可欠である。本研究は、閉塞性冠動脈疾患を伴わない狭心症患者の診療における重要な臨床的空白を埋めるものであり、外科的アンルーフィングが有効な長期治療戦略であることを支持する強固なエビデンスを提供する。
資金提供および臨床試験登録
本論文では、資金源および臨床試験登録について明記されていない。詳細は原著を参照されたい。
参考文献
- Pargaonkar VS et al. Angina with non-obstructive coronary arteries and myocardial bridge: long-term outcomes of surgical unroofing. Eur Heart J. 2026;47(31):4290–4303.
- Corban MT, et al. Myocardial bridging: contemporary understanding of pathophysiology with implications for diagnostic and therapeutic strategies. J Am Coll Cardiol. 2014;63(22):2346–55.
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- Shirani J, et al. Surgical treatment of symptomatic myocardial bridging: long-term follow-up. J Cardiovasc Surg (Torino). 2019;60(1):24-31.