注目ポイント
- Venous Excess Ultrasound Score(VExUS)は、肺高血圧症(pulmonary hypertension, PH)患者における侵襲的測定右房圧(right atrial pressure, RAP)と強い段階的相関を示した。
- VExUSは、RAP >12 mmHgの上昇を検出する診断精度が極めて高く(AUC 0.97)、単独の心エコー指標を上回り、複合的な心エコーによるRAP推定と同等であった。
- VExUSの精度は、前毛細血管性、後毛細血管性、ならびに肺高血圧症を伴わない血行動態プロファイルのいずれにおいても一貫しており、広い臨床応用可能性が示された。
- 本非侵襲的ツールは、体静脈うっ血のベッドサイド評価を改善し、PHおよび静脈圧上昇を来す他病態の管理に資する可能性がある。
研究背景
肺高血圧症(PH)は、肺動脈圧および肺血管抵抗の上昇により右心機能障害を来す複雑な疾患である。右房圧(RAP)は、右室前負荷、体静脈うっ血を反映し、さらに予後とも相関するため、PHの評価および管理において重要である。RAP測定のゴールドスタンダードは侵襲的な右心カテーテル検査であり、精度は高い一方、資源を要し、手技に伴うリスクも存在する。
超音波に基づく非侵襲的指標、とくに下大静脈(inferior vena cava, IVC)の径および虚脱性を用いた心エコー評価は、従来RAP推定に用いられてきたが、精度や再現性に限界がある。Venous Excess Ultrasound Score(VExUS)は、IVC指標に加え、肝静脈、門脈、腎内静脈のドプラ血流パターンを統合した複合超音波スコアであり、体静脈うっ血を定量化する有望な手段として注目されている。しかし、本研究以前は、PH患者集団における実測RAPに対するVExUSの直接的な侵襲的検証は限定的であった。
研究デザイン
本研究は、肺高血圧症を専門とするイタリアの7つの参照施設で実施された前向き多施設観察研究である。PH評価のために紹介された187例が登録され、ヘモダイナミック状態の時間的変動を最小化する目的で、VExUSスコアリングと右心カテーテル検査は1時間以内に実施された。
VExUSスコアは0~3の範囲で、4つの超音波パラメータ、すなわちIVC径と呼吸性虚脱性、および肝静脈、門脈、腎内静脈のドプラ波形を組み込んでいた。同時に、IVC単独指標および右房面積の心エコー評価も行われた。主要評価項目は、侵襲的測定RAPを参照基準として、上昇したRAP(>12 mmHg)を予測するVExUSの診断性能を評価することであった。
サブグループ解析では、患者を血行動態表現型により、前毛細血管性PH(大部分は肺動脈性肺高血圧症)、後毛細血管性PH、およびPHなしに層別化し、異なる病態間での性能の一貫性を検討した。
主な結果
対象集団は、前毛細血管性PH 145例(大部分が肺動脈性肺高血圧症)、後毛細血管性PH 21例、ならびに肺高血圧症を認めない21例で構成された。
VExUSグレードの上昇に伴い、侵襲的測定による平均RAPが段階的に増加する明確な関連が認められた。
- グレード0:平均RAP 3.9 mmHg
- グレード1:平均RAP 8.4 mmHg
- グレード2:平均RAP 13.5 mmHg
- グレード3:平均RAP 15.8 mmHg
この傾向は統計学的に極めて有意であり(p<0.001)、本スコアが静脈うっ血の重症度を正確に層別化できることを示した。
診断性能解析では、VExUSスコアはRAP >12 mmHgの検出においてROC曲線下面積(AUC)0.97(95% CI: 0.94–0.99)を達成し、優れた識別能を示した。これは、IVC径または虚脱性のみを用いた単純な心エコー指標を上回り、右房サイズなどの追加パラメータを含む包括的な心エコーRAP推定と同等であった。
サブグループ解析により、VExUSは前毛細血管性PHおよび後毛細血管性PHの患者、ならびにPHを有しない被験者においても高い診断精度を維持し、静脈圧評価を要する臨床状況で広く適用可能であることが確認された。
専門的考察
本多施設検証研究は、VExUSスコアが肺高血圧症における体静脈うっ血の評価およびRAP推定に有用な、感度・特異度の高い非侵襲的ツールであることを強力に支持する。IVCに加えて複数の静脈ドプラ評価を統合することで、VExUSは単独のIVC指標よりも複雑な血行動態変化を包括的に捉える。
限界として、本研究は観察研究デザインであり、主として専門施設での成績である点が挙げられる。今後は、他の臨床現場での有用性や縦断的モニタリングに関する研究が望まれる。さらに、ドプラ静脈波形の取得における検者の熟練度は、広範な導入の障壁となり得る。
機序的には、VExUSは、上昇した右房圧が肝静脈、門脈、腎静脈へ逆行性に伝播することで生じる波形変化を捉え、静脈うっ血の全身への影響を評価する。こうした包括的アプローチは、右心不全の早期検出と治療調整に寄与する可能性がある。
結論
Venous Excess Ultrasound Score(VExUS)は、肺高血圧症の評価対象患者における右房圧の妥当性が確認された、高精度な非侵襲的マーカーである。単独の心エコー指標と比較して優れた診断性能を示し、多様なPH表現型において有効である。
VExUSの導入により、リスク層別化、侵襲的検査の実施時期の最適化、ならびに輸液管理およびうっ血解除戦略に関する臨床判断の向上が期待される。今後は、その予後的価値と、より広範な循環器・集中治療領域の日常診療への統合について検討する必要がある。
資金提供および臨床試験
原著論文では、具体的な資金提供元は詳細に記載されていない。多施設共同研究であることから、機関間の協力支援があったと考えられる。資金開示に関するさらなる確認が必要である。
臨床試験登録は示されていない。
参考文献
1. D’Alto M, Cangiano N, Orlando A, et al. Multicenter invasive validation of the Venous Excess Ultrasound Score (VExUS) in patients referred for pulmonary hypertension. Chest. 2026 Aug 29. PMID: 42668061.
2. Denault AY, et al. Venous Excess Ultrasound Score for fluid management and congestive states. J Am Soc Echocardiogr. 2020.
3. Rudski LG, et al. Guidelines for the echocardiographic assessment of the right heart in adults: A report from the ASE. J Am Soc Echocardiogr. 2010.
4. Voigt J-U, et al. Echocardiography for invasive hemodynamic monitoring. Cardiol Clin. 2008.
5. Levitov A, et al. Right atrial size and pressures in pulmonary hypertension: correlation with ambulatory right heart catheterization. Respir Med. 2015.
