肥満は世界的に蔓延する慢性的な健康状態で、罹患率と死亡率の増加に関連し、心血管疾患、2型糖尿病、生活の質の低下を引き起こします。特にグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RAs)や関連するインクレチンベースの治療薬といった、減量経路を標的とする薬物療法の進歩は、肥満管理のための有望な補助手段を提供しています。本稿は、臨床上の意思決定を導くために、チルゼパチド、セマグルチド、およびリラグルチドの有効性、安全性、および患者にとって重要なアウトカムを評価した、最近更新された3つのCochrane系統的レビューを批判的に比較検討します。
背景
肥満の病態生理学には、複雑な神経内分泌および代謝の機能不全が関与しています。GLP-1経路を介して作用する薬物療法は、満腹感を高め、エネルギー摂取を減少させることができます。チルゼパチドはGIPとGLP-1受容体に対する二重作動作用を独自に併せ持ち、セマグルチドは選択的なGLP-1RAであり、リラグルチドはより初期のGLP-1RA製剤です。これらの薬剤は、肥満症を持つ成人を対象としたさまざまな集団での作用を評価するために、複数の無作為化比較試験(RCTs)で調査されてきました。
研究デザインと対象集団
3つのCochraneレビューはすべて、肥満成人参加者を含むRCTを統合しています。これらの参加者は通常、肥満の基準を満たすBMI閾値を有し、2型糖尿病、心不全、睡眠時無呼吸などの肥満関連合併症を持つ個人が含まれることがよくあります。追跡期間は6ヶ月から3年以上とさまざまです。介入用量は推奨される臨床範囲内で異なり、チルゼパチド(週5〜15mg)、セマグルチド(様々な用量、主に週2.4mg)、リラグルチド(日用量)でした。これらの試験は主に中高所得国で行われ、製薬スポンサーが研究デザイン、実施、報告において大きな影響力を持っていました。
主要な有効性に関する知見
体重減少
体重の平均減少率と、体重の$\ge 5%$減少を達成した参加者の割合が、各レビューの主要な有効性アウトカムを構成しました。
| パラメーター | チルゼパチド | セマグルチド | リラグルチド |
| 中期平均体重減少率 | -16.03% (95% CI: -18.91 to -13.14) | -10.73% (95% CI: -12.24 to -9.21) | -4.72% (95% CI: -5.32 to -4.12) |
| ≥5%体重減少達成の割合(リスク比) | 3.60 (95% CI: 2.44 to 5.30) | 2.68 (95% CI: 2.30 至 3.12) | 2.10 (95% CI: 1.80 至 2.45) |
| 長期体重減少(平均差) | -15.66%(3.5年) | -11.11%(26ヶ月) | -4.34%(104-162週) |
| 長期≥5%体重減少(リスク比) | 2.81 | 2.74 | 1.78 |
これらのデータは、チルゼパチドが最も高い減量効果を達成し、次いでセマグルチド、そしてリラグルチドが続くことを示唆しています。チルゼパチドとセマグルチドは長期的に持続する効果を示しましたが、リラグルチドの体重関連効果はより穏やかでした。
安全性と有害事象(AEs)
非重篤および重篤な有害事象(AEs)
全ての薬剤は、プラセボと比較して、非重篤な有害事象(主に悪心、嘔吐、下痢などの胃腸症状)のリスクを増加させる可能性があります。リスク比は以下の通りです。
- チルゼパチド: 非重篤AEsのリスク比は約 $1.33$(エビデンスの確実性低);
- セマグルチド: 非重篤AEsのリスク比は約 $1.11$(エビデンスの確実性低);
- リラグルチド: あらゆるAEsのリスク比は約 $1.07$(エビデンスの確実性低)。
重篤な有害事象に関するデータは、すべての薬剤で非常に不確実性が高く、信頼区間が広く、エビデンスの確実性は非常に低いです。有害事象による治療中止の割合は以下の通りです。
- チルゼパチド: 増加させる可能性あり(中期リスク比 $2.06$、確実性低)。
- セマグルチド: 増加させる可能性が高い(中期リスク比 $1.84$、確実性中)。
- リラグルチド: 増加は非常に不確実(中期リスク比 $1.98$)。
心血管イベントと死亡率アウトカム
主要な有害心血管イベント(MACE)と死亡率は、臨床的影響において最も重要です。
- チルゼパチド: プラセボと比較して、MACEまたは死亡率に有意な差はない可能性が高いです。
- セマグルチド: MACE(中期リスク比 $0.63$;長期リスク比 $0.81$)および死亡率(中期リスク比約 $0.69$;長期リスク比 $0.82$)を減少させる可能性がありますが、確実性は低〜中です。
- リラグルチド: MACEに有意な差はない可能性があり、死亡率への影響は非常に不確実です。
生活の質 (QoL)
3つの薬剤すべてにおいて、生活の質の尺度(IWQOL-Lite-CT、SF-36、EQ-5D-5L)で臨床的に意味のある差は見られず、エビデンスの確実性は中〜低でした。
比較のまとめ
以下の表は、比較の強みと限界を要約したものです。
| アウトカム | チルゼパチド | セマグルチド | リラグルチド |
| 体重減少効果 | 最高の効果、$3.5$年まで持続可能 | 高い効果、$26$ヶ月持続可能 | 穏やかな効果、長期効果は弱い |
| 非重篤AEs | リスク増加、主に胃腸症状 | リスク増加、主に胃腸症状 | リスク増加、主に胃腸症状 |
| 重篤AEs | エビデンス不確実 | エビデンス不確実 | エビデンス不確実だが増加の可能性あり |
| 中止につながるAEs | 増加の可能性あり(確実性低) | 増加の可能性が高い(確実性中) | 不確実だが増加の可能性あり |
| MACE | 有意な差はない可能性が高い | イベントを減少させる可能性あり(確実性低〜中) | 有意な差はない可能性が高い |
| 死亡率 | 有意な差はない可能性が高い(確実性中) | 減少させる可能性あり(確実性低〜中) | 非常に不確実 |
| 生活の質 | ほとんど差がない | ほとんど差がない | ほとんど差がない |
| エビデンスの確実性 | 体重に関しては中、安全性に関しては低〜非常に低 | 体重(中期)に関しては高、その他の主要アウトカムは中 | 非常に低〜中、バイアスのリスクにより格下げ |
| 資金提供のバイアス | すべての研究が製造業者による資金提供 | ほとんどが製造業者による資金提供 | ほとんどが製造業者による資金提供 |
専門家のコメント
データは、二重GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチドが、セマグルチドやリラグルチドと比較して最も高い減量効果を有することを示しており、これは相乗的なメカニズムの作用を反映している可能性があります。セマグルチドは、高い確実性の減量エビデンスを有する強力なGLP-1RAであり続けています。リラグルチドは、以前は肥満治療の標準的なGLP-1RAでしたが、比較的穏やかな効果を示しています。安全性のプロファイルは一貫して胃腸の有害事象が優勢ですが、重篤なイベントに関するデータの確実性が低いため、慎重な解釈が必要です。
セマグルチドが示す心血管系の利益は、エビデンスの確実性が低いものの、以前の心血管アウトカム試験と一致しており、さらなる研究に値します。チルゼパチドの心血管アウトカムへの影響は、長期データが不足しているため、依然として不確実です。生活の質のデータの一貫性は、薬物療法が体重を改善しても、測定可能な生活の質の改善には繋がらない可能性があることを示唆しており、これは生活の質を決定する要因の多面性を反映している可能性があります。
すべてのエビデンスにおける重要な限界は、業界資金が支配的であることであり、報告バイアスや、研究デザインまたは出版への影響についての懸念を引き起こしています。さらに、多様な集団の代表性の不足が一般化を制限しています。
結論
Cochrane系統的レビューによって評価された肥満の薬物療法において、チルゼパチドは、セマグルチドとリラグルチドを上回り、最長の持続期間で最大の体重減少効果を示しました。セマグルチドもまた、説得力のあるエビデンスの質とともに、顕著で持続的な減量を示し、リラグルチドの効果はより穏やかでした。安全性プロファイルは許容可能ですが、軽度の有害事象の増加と重篤なイベントの不確実性を考慮すると、注意が必要です。心血管および死亡率の利益はセマグルチドでより明確ですが、エビデンスは依然として不確実です。
臨床医は、薬剤を選択する際に、個々の患者の要因、治療目標、および忍容性を考慮する必要があります。包括的な利益とリスクのプロファイルを解明し、ガイドラインを導くために、より広範な集団でのさらなる独立した長期的な比較研究が必要です。利益相反の透明な対処とアウトカム報告の標準化が、エビデンスの信頼性を高めるでしょう。
資金提供と登録
3つのCochraneレビューはすべて世界保健機関(WHO)の資金提供を受け、PROSPEROに事前に登録されています(CRD420250654193)。レビューに含まれる研究は、主にそれぞれの薬剤メーカーによって資金提供されたか、関与していました。
参考文献
1. Franco JV, et al. Tirzepatide for adults living with obesity. Cochrane Database Syst Rev. 2025;10(10):CD016018.
2. Bracchiglione J, et al. Semaglutide for adults living with obesity. Cochrane Database Syst Rev. 2025;10(10):CD015092.pub2.
3. Meza N, et al. Liraglutide for adults living with obesity. Cochrane Database Syst Rev. 2025;10(10):CD016017.

