ハイライト
– KEYNOTE-585 試験では、フルオロウラシルとシスプラチンの化学療法にペムブロリズマブを追加することで病理学的完全奏効率は改善したが、無イベント生存期間 (EFS) の有意な改善には至らなかった。
– MATTERHORN 試験では、デュルバルマブと FLOT 化学療法の組み合わせが切除可能な食道胃癌の EFS を有意に改善した。
– FLOT 三剤併用化学療法を基盤とした治療が成績改善と免疫療法の有効な統合に重要である。
– 術前免疫療法の追加が不可欠であり、術後免疫療法のみでは食道胃癌において効果は示されていない。
研究背景と疾患負担
食道胃腺がんは、世界中で重大な死亡原因であり、手術と全身療法の組み合わせが根治意図治療の中心となっています。過去20年間で、術前術後化学療法が標準治療となり、特に西洋諸国では手術優先のアプローチに代わってきました。しかし、最適な化学療法レジメンと免疫療法の統合はまだ調査中であり、術前術後化学療法に放射線療法を追加する役割は明確な利益を示していません。PD-1/PD-L1 軸を標的とする免疫療法は進行期がんで有望ですが、切除可能病変の術前術後設定での確立はまだ完了していません。
研究デザイン
KEYNOTE-585 試験は、全世界規模の第III相無作為化比較試験で、PD-1 抑制薬であるペムブロリズマブをフルオロウラシル (FU) とシスプラチンの術前術後化学療法に追加することで、切除可能な食道胃癌患者の成績が改善するかどうかを評価しました。主要評価項目は EFS で、共同主要評価項目として病理学的完全奏効 (pCR) がありました。地域差により、特にアジアでは FLOT (FU, リコボリン, オキサリプラチン, ドセタキセル) ではなく FU-シスプラチン二剤併用が化学療法の基盤として使用されました。後から追加された小さな群では、FLOT にペムブロリズマブまたはプラセボがランダムに割り付けられました。
一方、MATTERHORN 試験では、切除可能な食道胃癌患者 948 人を PD-L1 抑制薬であるデュルバルマブを含む FLOT 化学療法と FLOT 単独に無作為に割り付け、主要評価項目として EFS、主要二次評価項目として全生存期間 (OS) を評価しました。すべての患者が FLOT 三剤併用を受けることで、現代の標準に準拠しました。
主要な知見
KEYNOTE-585: この試験は、主要評価項目である EFS の有意な改善を達成できませんでした (HR 0.81; p>0.05)。ただし、中央値で約20ヶ月の数値的な改善が見られ (25.7ヶ月から44.4ヶ月)、pCR 率は有意に高くなりました。全生存期間 (OS) は数値的に改善しました (中央値 OS 71.8ヶ月 vs. 55.7ヶ月) が、主要評価項目が達成されなかったため統計的検定は限定的でした。FLOT 群の追加はこれらの結果に大きな影響を与えませんでした。FU とシスプラチン二剤併用を使用したことが、有効性と検出力の低下につながった可能性があります。
MATTERHORN: デュルバルマブを FLOT 化学療法に追加することで、EFS が有意に改善しました (2年 EFS 67.5% vs. 58.5%; HR 0.71; 統計的に有意)。2年後の OS は有利な傾向を示しました (75.7% vs. 70.4%)。pCR はデュルバルマブ群で12% 改善しました。重要なのは、税環系薬を含む FLOT レジメンが化学療法の基盤として標準化されていることであり、これが肯定的な結果に寄与した可能性が高いです。
試験間比較: 直接的な試験間比較は設計や対象群の違いにより限られていますが、FLOT 制御群の成績は試験間で一貫しています。両試験の免疫療法と FLOT 群の類似した生存率と pCR 率は、強力な化学療法基盤との組み合わせで免疫療法剤が生物学的に活性化することを支持しています。
安全性: 両試験とも、免疫療法の追加による手術の合併症増加や許容できない毒性は報告されておらず、術前術後免疫療法の統合の実現可能性を示しています。
専門家コメント
KEYNOTE-585 が主要評価項目を達成できなかったことは、化学療法基盤の選択の重要性を強調しています。税環系薬を含まない劣った二剤併用レジメンが、病理学的反応の改善にもかかわらず統計的に有意な生存利益が得られなかった理由の一部である可能性があります。FLOT の試験間の一貫性は、腫瘍細胞削減を最大化し免疫療法のシナジーを促進する三剤併用化学療法プラットフォームの必要性を示しています。
ペムブロリズマブ (抗 PD-1) とデュルバルマブ (抗 PD-L1) の違いも影響しているかもしれませんが、類似の免疫チェックポイント阻害経路と両試験で見られた類似の pCR 改善から、これが主因であるとは考えにくいです。
術前免疫療法が不可欠であることが示唆されています。術後単独の補助免疫療法を評価する試験 (例: ATTRACTION-5) では利点が示されておらず、手術前の早期免疫プリミングの生物学的根拠を強調しています。
西側とアジアの胃がん管理戦略の地域差が試験結果に影響を与える可能性があり、FLOT と免疫療法の組み合わせのような世界的に統一されたレジメンの必要性を強調しています。
結論
切除可能な食道胃癌の術前術後免疫療法における KEYNOTE-585 と MATTERHORN 試験の異なる結果は、重要な教訓を提供しています:
- 術前術後免疫療法は病理学的反応を改善しますが、生存利益を得るには最適化された化学療法プラットフォーム、特に FLOT レジメンが必要です。
- 術前免疫療法の組み込みが不可欠であり、術後単独の免疫療法では不十分です。
- 術前術後 FLOT とデュルバルマブの組み合わせの世界的採用が、切除可能な食道胃腺がんの新しい標準治療を確立します。
- 今後の方向性には、バイオマーカーに基づく患者選択、新しい免疫増強剤の探索、および新興標的薬の統合が含まれます。
これらの知見は、この難治性がんの長期生存のさらなる向上を目指す臨床実践と進行中の試験設計に情報提供します。
参考文献
1. Ilson DH. KEYNOTE-585 Fails While Matterhorn Succeeds in Gastric Cancer: What Lessons Can We Learn? J Clin Oncol. 2025 Aug 19:JCO2501439.
2. Al-Batran SE et al. Perioperative chemotherapy with FLOT versus ECF/ECX in gastric or gastro-esophageal junction adenocarcinoma (FLOT4): Lancet. 2019;393(10184):1948-1957.
3. Shah MA et al. MATTERHORN Study: Durvalumab plus FLOT in Resectable Gastric Cancer, ASCO GI 2024 Abstract.
4. Ohtsu A et al. ATTRACTION-5: Nivolumab plus chemotherapy after upfront gastrectomy. JCO. 2023.
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