序論
アデノシン脱氨酵素(ADA)欠損症によって引き起こされる重症複合型免疫不全症(SCID)は、免疫系が著しく弱まる希少な遺伝性疾患です。治療がない場合、ADA-SCIDの子どもたちは生命にかかわる感染症に対して脆弱です。従来の治療法には、酵素置換療法や同種造血幹細胞移植がありますが、これらの方法には免疫拒絶や移植片対宿主病などの制限があります。
最近の遺伝子療法の進歩により、患者自身の造血幹細胞における遺伝的欠陥を直接修正するという治療法が有望視されています。本稿では、レトロウイルスベクターを使用した自己CD34+造血幹細胞遺伝子療法の長期安全性と効果性について、広範なコホート研究に基づいて詳細に述べています。
背景と理由
ADA欠損症は、ADA遺伝子に影響を与える突然変異によって引き起こされ、アデノシン代謝物の有毒な蓄積により免疫細胞の発達が阻害されます。従来の治療法は症状の対処や欠損酵素の補充に留まり、しばしば根本的な治療にはなりません。遺伝子療法は、患者自身の幹細胞内での機能的なADA遺伝子の復元を目指し、持続的な酵素産生と免疫再構築を可能にします。
方法論
2012年から2019年の間に、米国と英国で62人のADA-SCID患者が自己造血幹細胞遺伝子療法を受けました。参加者はブスルファンによる非ミエロアブレーション前処置を受けた後、体外で転写されたCD34+造血幹細胞の輸注を受けました。これらの細胞は、人間のADA遺伝子をコードするレトロウイルスベクターで転写されました。
主要な有効性評価項目には、全体生存率とイベントフリー生存率が含まれます。イベントフリー生存率は、同種造血幹細胞移植、酵素置換療法の再開、またはさらなる遺伝子療法などの追加治療の必要性なしに生存することを定義します。二次評価項目には、免疫グロブリン置換療法、ワクチンに対する抗体滴度、および抗真菌または抗ウイルス予防薬の中止が含まれます。
結果
結果は、治療を受けた患者の100%の全体生存率と95%のイベントフリー生存率を示しました。特に、6ヶ月後に成功裏に遺伝子マーキングされた造血細胞の移植を受けた59人の患者全員が、酵素置換療法の必要性なく、安定したADA遺伝子の発現、酵素活性、および免疫再構築を維持し続けました。中間追跡期間は7.5年でした。
さらに、これらの患者の58人(98%)が免疫グロブリン置換療法を中止し、ワクチンに対する強力な免疫学的反応を示しました。重要なことに、患者の誰も白血病のような増殖や遺伝子組換え細胞のクローン拡大を経験しなかったため、手順の安全性が確認されました。
議論
この長期データは、遺伝子療法がADA-SCID患者の免疫機能の回復を維持する持続性を強調しています。追跡期間中には挿入突然変異やクローン優位性に関連する有意な有害事象が観察されなかったため、療法の安全性プロファイルは良好であると考えられます。
患者が免疫グロブリン療法を中止でき、ワクチンに反応できる能力は、療法が意味のある免疫再構築をもたらすことを強く示唆しています。これらの知見は、遺伝子療法が恒久的な治療となり、生涯にわたる酵素置換療法やリスクの高い移植手術への依存を減らす可能性があることを支持しています。
結論
本研究は、レトロウイルスベクターを使用した自己CD34+造血幹細胞遺伝子療法がADA-SCIDに対する安全で持続的な治療法を提供することを示す強力な証拠を提供しています。長期的な影響を監視し、治療プロトコルを改善するための継続的な監視とさらなる研究が必要ですが、現在の結果は影響を受ける子どもたちとその家族にとって有望であることを示しています。
資金提供と開示
本研究は、国立心肺血液研究所などからの資金提供を受けました。本研究はClinicalTrials.gov番号NCT04049084で登録されています。

