ハイライト
- DANFLU-2試験は、デンマークでの大規模な実践的研究で、332,438人の高齢者を対象に高用量ワクチンと標準用量ワクチンを比較した。
- 高用量ワクチンは、インフルエンザまたは肺炎の入院という主要評価項目に対して有意な減少をもたらさなかった(相対的ワクチン効果 [rVE] 5.9%;P=0.14)。
- インフルエンザ特異的な入院(rVE 43.6%)や循環器系・呼吸器系の入院(rVE 5.7%)では有意な減少が観察された。
- 高用量ワクチン群と標準用量ワクチン群での重大な有害事象は同等だった。
序論:高齢者におけるインフルエンザの課題
インフルエンザの負担は、免疫機能の低下により感染への反応や標準的なワクチン接種の効果が低下する高齢者において特に高い。これに対処するために、標準用量ワクチン(SD-IIV)の4倍の抗原量を含む高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)が開発された。以前の有効性試験では、HD-IIVが検査所見に基づくインフルエンザに対する優れた保護を提供することが示されているが、大規模な実世界の集団における重篤な臨床アウトカム(入院など)の予防効果に関する証拠はまだ確定的ではなかった。
DANFLU-2試験:研究デザインと方法論
DANFLU-2試験は、2022年から2025年にかけてデンマークで実施された実践的、オープンラベルの無作為化比較試験である。この研究は、全国の行政保健レジストリを活用し、大規模なサンプルサイズと包括的なフォローアップを可能にした。
対象者と介入
65歳以上の332,438人が参加し、1:1の割合で高用量4価不活化インフルエンザワクチンと標準用量4価不活化インフルエンザワクチンのいずれかを投与された。参加者の平均年齢は73.7歳で、性別の分布は均衡していた(女性48.6%)。
評価項目
主要評価項目は、ワクチン接種後14日から翌年の5月31日までのインフルエンザまたは肺炎による初回入院だった。二次評価項目には、インフルエンザ特異的な入院、肺炎特異的な入院、循環器系・呼吸器系に関連する入院、全原因による入院、全原因による死亡が含まれた。
主要な知見:臨床アウトカムの詳細な分析
DANFLU-2試験の結果は、ワクチンの性能について複雑な視点を提供している。高用量ワクチンは特定の領域で明確な利点を示したが、主要な複合目標に対して統計的有意性を満たすことができなかった。
主要評価項目:インフルエンザまたは肺炎の入院
高用量群では1,138人(0.68%)、標準用量群では1,210人(0.73%)がインフルエンザまたは肺炎で入院した。相対的ワクチン効果(rVE)は5.9%(95.2% CI, -2.1 to 13.4)、P値は0.14だった。信頼区間がゼロを跨いでいたため、高用量ワクチンがこの複合指標で優れていたとは結論付けられなかった。
二次評価項目:インフルエンザ特異的な入院
主要評価項目とは対照的に、ワクチンはインフルエンザ特異的な入院に対して堅調なパフォーマンスを示した。高用量群では0.06%、標準用量群では0.11%の発生率であり、rVEは43.6%(95.2% CI, 27.5 to 56.3)だった。この有意な結果は、より高い抗原量が重症のインフルエンザ関連疾患に対するより良い保護につながることを確認している。
肺炎と循環器系・呼吸器系のアウトカム
肺炎単独の入院では、両群間にほとんど差がなかった(rVE 0.5%;95.2% CI, -8.6 to 8.8)。しかし、高用量ワクチンは循環器系・呼吸器系疾患の入院を統計的に有意に減少させた(rVE 5.7%;95.2% CI, 1.4 to 9.9)。これは、インフルエンザを予防することで、慢性心疾患や肺疾患の悪化を防ぐ効果があることを示唆している。
全原因による死亡と安全性
両群間で全原因による死亡率に有意な違いはなかった(rVE -2.5%)。安全性プロファイルは保証され、高用量ワクチン群で重大な有害事象の有意な増加は認められなかった。
専門家のコメント:主要評価項目が有意性を満たさなかった理由
主要評価項目(インフルエンザまたは肺炎)と二次評価項目(インフルエンザ特異的)との乖離は、DANFLU-2試験で医師が理解すべき最も重要な側面である。
肺炎の希釈効果
肺炎は、肺炎球菌などの細菌性病原体、RSVなどの他の呼吸器ウイルス、非感染性原因など、多様な病因を持つ症候群である。インフルエンザワクチンはインフルエンザ関連の肺炎のみを予防するように設計されているため、他のすべての原因による肺炎と組み合わされるとその効果は自然と「希釈」される。本試験では、肺炎の入院(0.63%)がインフルエンザの入院(0.06%〜0.11%)を大きく上回っていた。これは、ワクチンが特定の対象に対して非常に効果的だったものの、非インフルエンザ性肺炎の背景率が高すぎたためにHD-IIVが総合的な結果を変えることができなかったことを示唆している。
実践的試験の長所と短所
行政レジストリの使用は二面性がある。大規模で代表的な人口を可能にする一方で、全国の保健システム全体のさまざまな医師によるICD-10コードに依存している。多忙な臨床設定での「インフルエンザ」対「肺炎」の判定は、研究プロトコルによる検査所見の精度に劣る可能性があり、データにノイズが導入される可能性がある。
公衆衛生的影響と臨床実践
主要結果が非有意であったにもかかわらず、DANFLU-2のデータは高齢者への高用量ワクチンの継続使用を支持している。インフルエンザ特異的な入院を43.6%減少させる効果は、特に重症のインフルエンザシーズンでは臨床的に意味がある。さらに、循環器系・呼吸器系の入院の減少は、インフルエンザワクチン接種の「間接的」な恩恵を強調しており、脆弱な高齢者における心筋梗塞や心不全の悪化を引き起こすウイルスのトリガーを予防する効果がある。
結論
DANFLU-2試験は、肺炎のような広範な臨床症候群に対するワクチン効果を測定することの複雑さを強調している。高用量不活化インフルエンザワクチンは、インフルエンザと肺炎の入院を組み合わせたリスクを有意に低下させなかったが、インフルエンザ特異的な入院と循環器系・呼吸器系イベントの予防において標準用量ワクチンよりも優れた保護を示した。医師にとっては、HD-IIVが高齢者におけるインフルエンザ感染の最も直接的な結果を軽減する安全で効果的な手段であることが再確認された。
資金提供と臨床試験情報
本試験はサノフィによって資金提供された。DANFLU-2はClinicalTrials.gov(NCT05517174)およびEU Clinical Trials Register(2022-500657-17-00)に登録されている。
参考文献
Johansen ND, Modin D, Loiacono MM, et al. High-Dose Influenza Vaccine Effectiveness against Hospitalization in Older Adults. N Engl J Med. 2025 Dec 11;393(23):2291-2302. doi: 10.1056/NEJMoa2509907. Epub 2025 Aug 30. PMID: 40888720.

