ハイライト
– 医師の支援による終末期医療(MAiD)後の肝臓移植は、循環停止後死亡(DCD-III)肝臓移植と同等の患者および肝臓生存率を示しました。
– MAiDドナーの使用により、2016年から2023年の間にカナダのDCD肝移植活動が21.8%増加しました。
– 初期移植機能不全率はMAiDドナーの肝臓で低かったものの、入院期間は長かったです。
– 胆道合併症や主要な術後イベントは、MAiDドナーと標準的なDCDドナーの間で有意差はありませんでした。
研究背景
肝移植(LT)は末期肝疾患の重要な治療法ですが、適切なドナー器官の不足により制限されています。循環停止後死亡(DCD)はドナープールを拡大しましたが、循環停止の種類によって結果が異なることがあります。カナダでは2016年に医師の支援による終末期医療(MAiD)が合法化され、循環停止後死亡(DCD type-V)の新たなドナー源が生まれました。MAiDの特殊な状況と倫理的考慮、国際的な立法の違いにより、これらのドナーからの肝移植の臨床結果に関するデータは限られています。このカナダ多施設研究では、MAiDドナーからの移植片が従来のDCD-IIIドナーからの移植片と比較して、移植結果や合併症にどのように影響するかを検討しています。
研究デザイン
この後ろ向き多施設コホート研究は、カナダ全土のすべての州で実施され、2016年から2023年の間に肝移植を受けた患者を対象としました。研究対象者は、2つのドナー種類(DCD type-V:MAiD後の循環停止死亡、DCD type-III:生命維持治療の制御的な中止)から得られた肝移植片を受け取ったすべての患者を含みました。主な対象基準は、MAiD合法化以降にこれらのドナー種類からの肝移植片を使用して移植を受けた患者でした。主要評価項目は、移植後1年、3年、5年の受容者および移植片の生存率でした。副次評価項目には、初期移植機能不全(EAD)、入院期間(LOS)、術後合併症、胆道合併症が含まれました。研究では、ロジスティック回帰分析と多変量コックス比例ハザードモデルを使用して、ドナー種類間の移植片喪失リスクを評価しました。
主要な知見
合計313人の患者がDCD移植片を使用して肝移植を受けました。そのうち56人(17.9%)がDCD-Vドナーから、257人(82.1%)がDCD-IIIドナーから移植片を受け取りました。特に注目すべき点として、DCD-Vドナーの年齢が有意に高かった(中央値56歳対38歳、p < 0.0001)が、温性虚血時間は同程度でした(中央値20分対23分、p=0.190)。これは、ドナーの違いに関わらず、同等の臓器虚血状態を反映しています。
患者および移植片の生存率
DCD-V移植後の受容者生存率は、1年、3年、5年時点それぞれ89.3%、85.7%、85.7%でした。同じグループの移植片生存率は82.1%、78.6%、78.6%でした。これらの結果は、DCD-IIIドナーでの結果と同等であり、生存率に統計的に有意な差は見られませんでした。オッズ比(OR 1.35;95% CI: 0.39–4.68)と多変量コックス回帰分析(ハザード比1.58;95% CI: 0.59–4.27)を用いたリスク評価では、DCD-Vドナーの使用と移植片喪失との間に有意な関連は見られず、MAiDドナー移植片の安全性と効果が確認されました。
副次的評価項目
興味深いことに、初期移植機能不全はDCD-Vグループで少ない(42.9%対57.5%)ことが統計的に有意でした(p=0.047)。しかし、MAiDドナー移植片を受け取った患者の入院期間は長かったです(中央値21.5日対15日、p=0.011)。これは、ドナーの年齢や術中管理の違いに関連している可能性がありますが、さらなる検討が必要です。術後合併症の頻度、特に胆道合併症は統計的に有意な差は見られませんでしたが、DCD-Vグループで胆道合併症の傾向が高かった(32.1%対23.1%、p=0.153)ことは統計的有意性には達しませんでした。
専門家のコメント
MAiDドナーからの肝移植は、移植に独特の倫理的および臨床的次元をもたらします。これらの知見は、MAiD後の臓器提供が結果を損なうことなくドナープールを安全に拡大できるという仮説を支持しています。同等の長期的な移植片および患者の生存率は、成功した選択と管理プロトコルの存在を示しています。MAiDグループのドナーの年齢がやや高いことは、入院期間の延長や胆道合併症の傾向に影響を与えている可能性がありますが、これらの違いは移植片の失敗や死亡率の増加にはつながっていません。
本研究の制限点には、後ろ向き設計やDCD-Vグループの相対的な少人数があり、小さな合併症率の違いを検出する力が制限される可能性があります。また、法制度や実践パターンが世界中で異なるため、カナダ以外での一般化には注意が必要です。将来的には、このドナー群の虚血再灌流障害や胆道合併症に関する前向き研究やメカニズム研究が重要となります。
結論
カナダ多施設経験は、医師の支援による終末期医療後の肝移植が、安全で効果的な選択肢であることを示しています。DCD-IIIドナーと同等の生存率と合併症率は、MAiDドナーを組み込むことで肝移植ドナープールを拡大する潜在的な可能性を確認しています。この実践はすでにDCD移植活動を20%以上増加させ、移植へのアクセスを向上させ、患者が生涯の終わりに臓器提供を希望することを尊重しています。今後、より大きなコホートや長期的なフォローアップを含む継続的な評価が、これらの知見を確実にし、臨床プロトコルを最適化するために必要です。
参考文献
Parente A, Verhoeff K, Ray S, Selzner M, Reichman TW, Bleszynski MS, et al. Utilization of liver grafts obtained from donation after medical assistance in dying: A Canadian multicenter experience. J Hepatol. 2026 Jan 30:S0168-8278(25)02478-X. doi: 10.1016/j.jhep.2025.08.039. Epub ahead of print. PMID: 41145323.
 
				
 
 