序論:代謝腫瘍学の復権
かつてはがん化シグナルの傍観者効果と考えられていた代謝再プログラムの概念が、精密腫瘍学の最前線に移行しています。この変化の中心にあるのは、単なるエネルギー生産ハブではなく、がん代謝物を生成し、エピジェネティックおよびシグナル変更を通じて腫瘍発生を促進するクレブスサイクルの理解です。フマル酸水和酵素(FH)、サクシナート脱水素酵素(SDH)、イソシトラート脱水素酵素(IDH)などの酵素変異により、酸素存在下でも低酸素誘導因子(HIFs)を安定化させる代謝物が蓄積します。この「擬似低酸素状態」は、攻撃的な血管新生と有酸素性糖代謝への代謝シフトを引き起こします。BRISK試験(KCSG AL22-16)は、これらの脆弱性をベバシズマブとエルロチニブを使用した二重標的アプローチで利用する重要な取り組みを代表しています。
メカニズムの根拠:VEGFとEGFR阻害の相乗効果
ベバシズマブ(VEGF-A阻害剤)とエルロチニブ(EGFRチロシンキナーゼ阻害剤)をクレブスサイクル変異を有する腫瘍で組み合わせる生物学的根拠は多面的です。第一に、FHまたはSDH欠損によって誘導される擬似低酸素状態は、HIF-1αの持続的な安定化を引き起こし、血管内皮増殖因子(VEGF)を上調節します。これにより、VEGF介在性血管新生への高い依存性が生じます。第二に、上皮成長因子受容体(EGFR)シグナルは、さらに有酸素性糖代謝(ワールブルグ効果)を強化し、代謝ストレスを回避する生存信号を提供することが示されています。VEGF介在性血管新生とEGFRシグナルによる糖代謝サポートを同時に阻害することで、医師はこれらの代謝的にユニークな腫瘍を‘飢餓’させることを目指しています。
研究デザインと方法論
対象患者群
BRISK試験は、複数施設、オープンラベル、第II相試験でした。対象者は、FH、IDH1/2、SDHx、またはMDH2の病原性変異を有する進行固形腫瘍を有することが必要でした。脳腫瘍の場合、RECIST v1.1またはRANO 2.0基準に基づいて測定可能な病変を有することが必要でした。研究対象者は多様で、これらの代謝障害を持つ幅広い悪性腫瘍を反映していました。
介入と評価項目
参加者は、ベバシズマブ(10 mg/kg、静脈内投与、1日目)とエルロチニブ(150 mg、経口投与、1日1回)の組み合わせ治療を受けました。治療周期は14日間でした。主要評価項目は奏効率(ORR)でした。副次評価項目には、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性が含まれていました。試験には、応答と抵抗の潜在的なバイオマーカーを同定するための探索的トランスクリプトーム解析も含まれていました。
主な知見:結果の詳細
全体的な効果
2023年2月から11月にかけて、35人の患者が登録されました。この集団には、胆道系がん(BTC、54.3%)、脳腫瘍(20.0%)、FH欠損性腎細胞がん(FH欠損性RCC、17.1%)の患者が含まれていました。全腫瘍タイプにおける全体的なORRは37.1%で、完全奏効(CR)1例と部分奏効(PR)12例が含まれていました。特に重要的是、疾患制御率(DCR)が85.7%に達しており、これらの難治性疾患群においてこの組み合わせが疾患の安定化に非常に効果的であることを示唆しています。
サブグループの効果
効果は腫瘍タイプによって大きく異なり、今後の試験設計の手がかりとなっています:
- FH欠損性RCC: この群では最も劇的な反応が見られ、ORRは80.0%でした。これは、FH欠損腫瘍がベバシズマブ-エルロチニブ組み合わせに極めて感受性であるという以前の観察結果を確認しています。
- 胆道系がん(BTC): BTC(しばしばIDH変異を有する)の患者は、ORR 36.8%を達成しました。これは、しばしば限られた第三線治療オプションしかない患者集団にとって注目すべき結果です。
- 脳腫瘍: ORRは28.6%で、血脳関門を越えて効果が見られるものの、他の全身部位よりも顕著ではありませんでした。
生存アウトカム
中央値11.7ヶ月の追跡調査において、全群の中央PFSは8.3ヶ月でした。中央OSはデータカットオフ時点でまだ到達しておらず、参加者の一部に対して持続的な利益が示されています。
翻訳的洞察:応答のトランスクリプトーム予測因子
研究者は、なぜ一部の患者が他の患者よりも良い反応を示したのかを理解するために探索的なトランスクリプトーム解析を行いました。PFSが良好な患者では、VEGFと免疫関連経路の豊富さが見られました。一方、PFSが不良な患者では、アミノ酸代謝、脂肪酸代謝、酸化的リン酸化(OXPHOS)に関連する経路の豊富さが見られました。これは、OXPHOSを維持したり、代替燃料源(脂肪酸など)を利用できる腫瘍が、VEGFとEGFR阻害によって誘導される代謝ストレスに抵抗性である可能性を示唆しています。
安全性と忍容性
組み合わせの安全性プロファイルは、各薬剤の既知の毒性と一致していました。一般的な有害事象には、発疹、下痢、高血圧が含まれていました。試験中には新たな予期せぬ安全性シグナルは観察されず、進行固形癌患者にとって、血管系と皮膚系の副作用を監視する限り、この治療法は耐容性があることが示されました。
専門家のコメント:臨床的意義と制限点
BRISK試験は、代謝変異に対する‘組織型非特異的’アプローチへの重要な一歩です。NCIのSrinivasanらの研究に基づくFH欠損性RCCでの効果は予想されていましたが、BTCやその他の固形腫瘍での活性は新規で歓迎すべき発見です。これは、クレブスサイクル変異の代謝的影響が異なる原発組織間で共通の治療標的を作り出す可能性があることを示唆しています。
しかし、本研究には制限点があります。サンプルサイズは比較的小さく、対象群は多様です。さらに、探索的なトランスクリプトームデータは興味深いものですが、より大規模な前向きコホートでの検証が必要です。OXPHOSの豊富さが抵抗性と相関することを見つけることは特に興味深く、耐性症例における三重組み合わせ療法(mitochondriaを標的とする)の必要性を指摘しています。
結論
ベバシズマブとエルロチニブの組み合わせは、クレブスサイクル遺伝子変異を有する進行固形腫瘍において有望な効果を示しています。ORR 37.1%、DCR 85.7%で、この治療法は代謝擬似低酸素状態を有する腫瘍を持つ患者にとって強力な選択肢を提供しています。今後の研究は、IDH変異を有するBTCなどの特定の組織型コホートでのこれらの知見の検証と、治療抵抗性における代謝可塑性の役割の調査に焦点を当てるべきです。
資金提供と臨床試験情報
本研究は、韓国がん研究グループ(KCSG)の支援を受け、KCSG AL22-16として登録されました。ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05342467(または現地相当の登録)。

