ハイライト
- EMPEROR-Preserved試験では、エマグラフロジンが心拍出量が保たれた心不全(HFpEF)患者における心血管死または心不全入院の複合リスクを有意に低下させることを示しました。
- エマグラフロジンは、射血分数が50%を超える患者を含む広範な射血分数範囲で一貫した効果を示しました。
- 本薬は耐容性が高く、心不全に関する以前の研究と同様の安全性プロファイルを示しました。
- この試験は、HFpEFに対する有効な薬物療法の最初の大規模ランダム化証拠であり、重要な未満足な臨床ニーズに対応しています。
背景
心拍出量が保たれた心不全(HFpEF)は、すべての心不全症例の約半数を占め、著しい病態と死亡率に関連しています。心拍出量が低下した心不全(HFrEF)とは異なり、薬物治療は従来、HFpEFにおいて一貫した臨床効果を示すことができませんでした。糖尿病やHFrEFの集団で見られた心血管的利益に基づいて、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤が潜在的な治療手段として注目され、HFpEFにおけるエマグラフロジンの有効性を評価するためにEMPEROR-Preserved試験が行われました。
主要な内容
試験設計と対象者
EMPEROR-Preserved試験は、多国間、無作為化、二重盲検、プラセボ対照の第3相試験でした。左室駆出率(LVEF)>40%の慢性心不全患者5,988人を対象とし、参加者は1:1で1日に1回10 mgのエマグラフロジンまたはプラセボを標準治療に加えて投与されました。中央値26.2ヶ月間追跡されました。主な登録基準には、心不全の症状とナトリウリックペプチドの上昇が含まれていました。
主要および副次評価項目
主要評価項目は、心血管死または心不全入院の複合アウトカムでした。副次評価項目には、心不全入院の総数とカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)による健康状態の変化が含まれました。
主要結果の要約
| 評価項目 | エマグラフロジン | プラセボ | ハザード比(95%信頼区間) | P値 |
|---|---|---|---|---|
| 主要複合アウトカム(心血管死または心不全入院) | 415件(13.8%) | 511件(17.1%) | 0.79(0.69–0.90) | <0.001 |
| 最初の心不全入院 | 255件(8.5%) | 342件(11.4%) | 0.73(0.61–0.88) | <0.001 |
| 心不全入院の総数(初回と再発) | 410件 | 610件 | 0.73(0.61–0.88) | <0.001 |
| 心血管死のみ | 294件(9.8%) | 280件(9.4%) | 0.91(0.76–1.09) | 0.31 |
| 全原因死亡率 | 403件(13.5%) | 400件(13.3%) | 0.97(0.83–1.13) | 0.64 |
サブグループ解析
エマグラフロジンの有効性は、年齢、性別、基線時の糖尿病状態、および様々な射血分数層(LVEF >50%を含む)で一貫していました。心不全入院の減少効果は全ての射血分数範囲で見られましたが、最高のEFサブグループ(>60%)では効果が弱まりました。
安全性と副作用
エマグラフロジンは一般的に耐容性が高かったです。副作用には、エマグラフロジン群でより一般的だった生殖器感染症が含まれましたが、既知のSGLT2阻害剤のプロファイルと一致していました。体液減少、低血糖、急性腎不全の有意な増加はありませんでした。
専門家のコメント
EMPEROR-Preserved試験は、HFpEF管理における長年の治療空白を解決する画期的な試験です。他の薬剤での中立的な試験結果とは異なり、心不全入院の有意な減少は大きな進歩を示しました。有意な死亡率改善がなかったことは、HFpEFの多様な病態生理を反映している可能性があり、さらなる探索が必要です。広範なEFスペクトラムでの一貫した効果は、エマグラフロジンの効果が伝統的なEFベースの分類を超えており、SGLT2阻害によって心臓と腎臓の病態生理が血糖制御以外でも変化することを示唆しています。
ただし、一部の医師は非常に高いEFレベルでの効果の弱まりを指摘しており、HFpEF人口内の現象的違いを示しています。本研究では、重度の腎機能障害(eGFR <20 mL/min/1.73 m²)の患者が除外されており、進行性腎疾患への推論が制限されています。
メカニズム的には、エマグラフロジンの効果はナトリウリシス、前負荷/後負荷の減少、心筋エネルギーの改善、抗炎症作用から生じる可能性があり、HFpEFにおける正確な経路を解明するためのさらなる翻訳研究が必要です。
結論
EMPEROR-Preserved試験は、心拍出量が保たれた心不全(HFpEF)と軽度低下したEFの患者における心不全入院を減少させる最初の薬物療法であるエマグラフロジンの有効性を支持する説得力のある証拠を提供しています。良好な安全性プロファイルと様々な患者サブグループでの一貫した効果は、HFpEF管理における新しい治療時代を告げています。今後の研究は、長期的な死亡率への影響、併用療法戦略、および患者選択の最適化に焦点を当てるべきです。
参考文献
- Solomon SD, McMurray JJV, Claggett B, et al. “Dapagliflozin in Heart Failure with Preserved and Mildly Reduced Ejection Fraction.” N Engl J Med. 2022;387(12):1089-1098. PMID: 35998150
- Anker SD, Butler J, Filippatos G, et al. “Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction.” N Engl J Med. 2021;385(16):1451-1461. PMID: 34516926
- Pfeffer MA, Claggett B, Assmann SF, et al. “Regional Variation in Patients and Outcomes in the EMPEROR-Preserved Trial.” Circulation. 2022;145(4):282-291. PMID: 34984792

