COVID-19後の小児侵襲性溶血性連鎖球菌感染症の急増:スペイン全国研究からの洞察

COVID-19後の小児侵襲性溶血性連鎖球菌感染症の急増:スペイン全国研究からの洞察

研究背景

A群溶血性連鎖球菌(GAS)または溶血性連鎖球菌 pyogenes は、皮膚感染から侵襲的な生命を脅かす疾患(STSSや壊死性筋膜炎など)まで、幅広い疾患を引き起こす重要なヒト病原体です。小児集団は特に侵襲性GAS(iGAS)感染症に脆弱であり、世界中で著しい病態と死亡率に関連しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に、社会的距離の確保や呼吸器感染の減少により、多くの感染症の疫学に影響を与えたと考えられています。パンデミック後のGAS感染パターンの変化が世界中で報告されており、iGAS症例の再増加やより重篤な疾患の発現についての懸念が高まっています。これには、疫学的監視の強化と医療準備が必要です。

研究デザインと方法

この全国多施設観察研究は、スペインのPedGAS-netネットワークの調整のもとで実施され、16歳以下のラボ検査で確認された侵襲性A群溶血性連鎖球菌感染症の小児を対象としました。研究は2019年1月から2023年7月までの期間を対象とし、2つの期間に分けています:P1(2019年1月〜2022年9月)、パンデミック前の基準期間と、P2(2022年10月〜2023年7月)、パンデミック後に症例が増加したアウトブレイク期間です。

臨床データは前向きに収集され、人口統計情報、臨床症候群、小児集中治療室(PICU)入院の必要性、および結果が含まれました。微生物学的特徴は、利用可能な細菌分離株のemm型別、抗菌薬感受性、全ゲノム配列解析を用いて株の変異を特定しました。多変量ロジスティック回帰分析を含む統計解析を行い、PICU入院と死亡に関連する重症疾患のリスク要因を確認しました。

主要な知見

本研究では558症例を分析し、男性が若干多い(55.1%)で、中央値年齢は約44ヶ月でした。アウトブレイク期間(P2:月間35.7症例)での月間罹患率の劇的な増加が観察され、パンデミック前の期間(P1:月間4.5症例)と比較して約8倍の増加(P < 0.001)を示しました。それに伴い、重症度も著しく増加し、PICU入院率はP1の30.8%からP2の51.3%に上昇しました(P < 0.001)。

肺炎が主要な臨床表現(32.3%)で、半数以上の肺炎症例(58.3%)で胸水合併症が頻繁に見られました。その他の侵襲性の表現には、STSS、壊死性筋膜炎、敗血症、中枢神経系への感染が含まれました。

emm型別は130株に対して行われ、emm1(56.1%)とemm12(27.1%)型が優位であることが示されました。特に、emm1株、特にM1UK変異株は、PICU入院のリスク増加と強く関連しており、疾患重症度に影響する株の病原性因子を示唆しています。

多変量解析では、PICU入院の独立したリスク要因として、STSS、肺炎、壊死性筋膜炎、急性腎不全、診断前の医療相談の有無が同定されました。死亡は11人(2.0%)で、STSS、敗血症、中枢神経系への感染が致命的な結果と強く関連していました。

専門家のコメント

パンデミック後の侵襲性GAS感染症の急増は、新型コロナウイルス感染症制限中の病原体曝露の減少によるコミュニティ免疫の低下、循環するGAS株の変化、医療行動の変化などの要因の組み合わせを反映している可能性があります。emm1株、特に高病原性のM1UKサブラインが、この株の侵襲性と毒素産生の増加との関連を示す以前の報告と一致しています。

これらの知見は、疫学的変化や新規株の迅速な検出のための強化された監視システムの重要性を強調しています。臨床医は、発熱と呼吸器症状を呈する小児、特に胸水を伴う肺炎を呈する小児においてiGASを疑うべきであり、急速な臨床的悪化の可能性があるため、早期の認識と積極的な管理、適切な抗生物質療法と支持療法が不可欠です。

研究の限界には、症例の未報告の可能性、すべての分離株に対するemm型別の限られた範囲、観察研究設計による因果関係の推論の困難さが含まれます。しかし、大規模な多施設サンプルと堅固な臨床-微生物学的統合により、結論の信頼性が高まります。

結論

このスペイン多施設研究は、新型コロナウイルス感染症後の小児侵襲性A群溶血性連鎖球菌感染症と疾患重症度の著しい増加を記録しており、emm1/M1UK株が臨床リスクの増加に重要な役割を果たしていることを示しています。これは、持続的な疫学的監視、迅速な微生物学的特徴付け、小児医療環境での重篤なiGAS症例の管理の準備の重要性を強調しています。さらに、機序的なドライバーの解明と予防戦略の最適化、潜在的なワクチン開発を含むさらなる研究が必要であり、この再増加する公衆衛生上の脅威に対処する必要があります。

参考文献

Cobo-Vázquez E, Aguilera-Alonso D, Grandioso-Vas D, et al; on behalf PedGAS-net Working Group. Sharp increase in the incidence and severity of invasive Streptococcus pyogenes infections in children after the COVID-19 pandemic (2019-2023): A nationwide multicenter study. Int J Infect Dis. 2025 Oct;159:107982. doi: 10.1016/j.ijid.2025.107982. Epub 2025 Jul 16. PMID: 40681093.

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