ハイライト
術後膵瘻(POPF)は、膵頭十二指腸切除術後に生じる重要な合併症です。この包括的なコクランレビューの更新では、膵管-粘膜吻合法と他の吻合技術(内反法や縫合法など)を比較し、POPFの発生を最小限に抑える最適な再建方法を決定するための無作為化比較試験(RCT)の証拠を統合しました。
分析には、開腹膵頭十二指腸切除術を受けた2140人の成人を対象とした14件のRCTが含まれ、膵管-粘膜技術が他の技術と比較してPOPFの発生率、術後死亡率、その他の合併症を減少させないという非常に低品質の証拠が見つかりました。
異なる膵管-粘膜吻合法(改良ブームガート法と伝統的な間欠縫合法)の間で明確な優位性は観察されず、不確実性が強調され、手術者の好みと専門知識の重要性が示されました。
研究背景
膵頭十二指腸切除術(またはウィップル手術)は、膵頭腫瘍や周囲部疾患に対してしばしば行われる複雑な手術です。再建には、膵残端と空腸との吻合が行われ、消化管の連続性を回復します。しかし、この手術には術後膵瘻(POPF)という合併症のリスクが高く、膵液の漏出により、合併症、長期入院、死亡率が高まります。
膵管-粘膜吻合法や内反吻合法などのさまざまな膵十二指腸吻合術が開発され、POPFの頻度を低下させることが目標となっています。膵管-粘膜技術は、膵管を空腸粘膜に正確に縫合することで、より良いドレナージを提供すると理論的に考えられています。しかし、その有効性は、矛盾したデータと方法論的な制限により、他の方法に対する優越性が明確ではありません。
研究デザイン
この系統的レビューおよびメタアナリシスは、2022年のコクランレビューを更新し、2024年6月までの3件の新しいRCTを含めています。対象となった研究には、18歳以上の成人で、開腹膵頭十二指腸切除術を受け、膵管-粘膜吻合法と他の技術(内反法や縫合法)を比較したものが含まれました。また、異なる膵管-粘膜アプローチ(改良ブームガート法と伝統的な間欠縫合法)を比較した研究も含まれました。
主要アウトカムは、BまたはCグレードのPOPFの頻度、術後死亡率、有害事象であり、二次アウトカムには再手術、術後出血、全体的な手術合併症、入院期間が含まれました。コクランバイアスリスクツール(RoB 1)で研究の質を評価し、データの統合にはランダム効果モデルのメタアナリシスを使用し、GRADEアプローチで証拠の信頼性を評価しました。
主要な知見
14件のRCT(2140人の参加者)が含まれ、12件のRCT(1678人の患者)が膵管-粘膜法と内反法の膵十二指腸吻合術を比較し、2件のRCT(462人の患者)が改良ブームガート法と伝統的な間欠縫合法を比較しました。すべての研究は、方法論的な制限と報告上の問題により、高いバイアスリスクがあると評価されました。
膵管-粘膜法と他の膵十二指腸吻合術の比較:膵管-粘膜膵十二指腸吻合術の利点に関する証拠は非常に不確かなものでした。POPFのプールされたリスク比(RR)は1.24(95% CI 0.72から2.14)で、内反法と比較して瘻孔リスクの明確な減少は見られませんでした。術後死亡率(RR 1.05、95% CI 0.59から1.86)、再手術率(RR 1.43、95% CI 0.87から2.33)、術後出血(RR 1.06、95% CI 0.69から1.63)、全体的な手術合併症(RR 1.10、95% CI 0.95から1.26)、入院期間(平均差 -0.41日、95% CI -1.87から1.04)にも統計学的に有意な違いはありませんでした。
有害事象は系統的に報告されていません。
改良ブームガート法と伝統的な間欠縫合法の比較:2件のRCTからの限定的なデータは、任意のアウトカムにおいて改良ブームガート法が伝統的な間欠縫合法よりも明確な利点や害がないことを示唆しています。POPFの頻度のRRは1.19(95% CI 0.68から2.08)、術後死亡率のRRは2.77(95% CI 0.55から13.98)で、信頼区間が広く、非常に低品質の証拠がありました。
改良ブームガート法では、平均2.62日の入院期間が有意に短い傾向が見られましたが、この結果は不確実でした(95% CI -6.76から1.52)。
専門家のコメント
この包括的なレビューは、POPFという恐れられる複雑な術後合併症を予防する再建技術に関する不確実性が持続していることを強調しています。膵管-粘膜吻合術は、膵管を空腸粘膜に正確に合わせることによる理論的な利点により広く採用されていますが、現在の証拠は、内反法や他の技術に対する優越性を確認していません。
高いバイアスリスク、手術者間の専門性のばらつき、POPFの定義の違い、有害事象の報告不足が、知見の解釈可能性と一般化可能性を制約しています。さらに、膵組織の質、膵管の大きさ、術中要因などの微妙な要素が吻合結果に影響を与えることについて、集約データではほとんど考慮されていません。
臨床ガイドラインと専門家は、個々の患者や手術者の要因に基づいて再建技術を選択することを推奨しており、選択した方法への精通と経験が方法自体と同じくらい重要であると強調しています。これは、改良ブームガート法などの特定の膵管-粘膜技術の変異体に有利な証拠が乏しいことからも支持されます。
これらの不確実性を解決し、術前・術後ケアを最適化するためには、標準化されたアウトカム評価、手術の品質管理、有害事象の彻底的なモニタリングを備えた、十分に設計され、適切なサンプルサイズのRCTが必要です。
結論と臨床的意義
この更新されたコクランレビューは、膵管-粘膜膵十二指腸吻合術が他の膵吻合術法に比べて術後膵瘻やその他の合併症を減少させる明確な利点を提供しないことを示しています。証拠の品質は、方法論的な制限と不確実性により非常に低いです。
改良ブームガート法と伝統的な間欠縫合法などの膵管-粘膜技術の変異体の相対的な優劣についても、明確な結論を導き出すことはできません。
手術者は、選択した膵十二指腸吻合術法に精通し、患者固有の要因に基づいて臨床判断を行うべきです。特に、患者への説明では、現行の証拠の不確実性と手術者の専門性の重要性について議論する必要があります。
POPFの持続的な高い合併症率は、より効果的で標準化された手術技術と術前・術後介入の開発に向けた緊急の研究の必要性を強調しています。
資金提供と試験登録
このコクランレビューは、中国国家自然科学基金(助成番号:81701950、82172135)、重慶市自然科学基金(助成番号:CSTB2025NSCQ-GPX1128)、重慶市適応技術普及プロジェクト(助成番号:2024jstg028)、重慶医科大学第二附属病院の高峰学科学会共同プロジェクト、および関仁人材プログラムによって資金提供されました。
登録:CRD42020169007。プロトコルDOI:10.1002/14651858.CD013462。元のレビューDOI:10.1002/14651858.CD013462.pub2。
参考文献
Wu X, Hu L, Zhou S, Liu Z, Gong J, Deng Y, Cheng Y. 膵管-粘膜法と他の膵十二指腸吻合術の技術:膵頭十二指腸切除術後の術後膵瘻予防. Cochrane Database Syst Rev. 2025年10月10日;10(10):CD013462. doi: 10.1002/14651858.CD013462.pub3. PMID: 41070739;PMCID: PMC12512226。
Bassi C, Marchegiani G, Dervenis C, Sarr M, Lillemoe K, Salvia R, et al. ISGPS(国際膵臓研究グループ)の術後膵瘻の定義と分類の2016年改訂:11年後の更新. 手術. 2017;161(3):584-91.
Asiyanbola B, Gleisner AL, Herman J, et al. 膵頭十二指腸切除術後の膵残端の外科的管理. J Surg Oncol. 2010;101(3):254-259.
Krishna SG, et al. 膵頭十二指腸切除術後の最適な膵十二指腸吻合術の技術:系統的レビューとメタアナリシス. HPB (Oxford). 2016;18(9):723-33.