ハイライト
- ESCAPE-NEXT試験では、急性虚血性脳卒中患者が静脈内溶栓療法なしで血管内血栓回収術を受けている場合に、神経保護性20アミノ酸ペプチドであるネリネットイドを評価しました。
- ネリネットイド群とプラセボ群の間で、良好な機能的結果(90日時点のmRS 0-2)を達成するのには有意な違いが見られませんでした。
- ネリネットイドは、プラセボと同等の安全性プロファイルを示し、重大な副作用の増加はありませんでした。
- 再灌流療法と一緒にネリネットイドが利益をもたらす可能性のある理想的なタイミングや患者層を特定するために、さらなる研究が必要です。
背景
大血管閉塞(LVO)によって引き起こされる急性虚血性脳卒中(AIS)は、世界中で重要な神経学的障害の原因となっています。血管内血栓回収術(EVT)による脳血流の迅速な回復は、対象となる患者の予後を改善します。しかし、機械的再灌流の進歩にもかかわらず、多くの患者が著しい神経学的障害に苦しんでいます。再灌流損傷や神経細胞死を軽減することで回復を向上させる補助的な神経保護戦略が長年求められてきました。
ネリネットイドは、虚血後の興奮性毒性神経損傷を引き起こすポストシナプス密度タンパク質95(PSD-95)の相互作用を妨げるために設計された20アミノ酸ペプチドです。初期のESCAPE-NA1試験では、ネリネットイドが静脈内溶栓療法を受けない患者においてEVTの際に機能的結果を改善することが示唆されましたが、溶栓薬を使用した場合は効果が見られませんでした。これは、プラスミノゲン活性化酵素がネリネットイドを分解し、その効果を無効にする可能性があるという仮説を提起しました。
ESCAPE-NEXT試験は、静脈内溶栓療法を受けないAIS患者に対するEVT単独治療におけるネリネットイドの有効性と安全性を検証することを目的としていました。これにより、この特定の臨床状況における神経保護剤としてのネリネットイドの潜在的な役割を確認することを目指していました。
研究デザイン
ESCAPE-NEXTは、カナダ、アメリカ合衆国、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スイス、オーストラリア、シンガポールの77施設で実施された多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験でした。参加者は、発症後12時間以内に前頭葉循環の大血管閉塞によって引き起こされた急性虚血性脳卒中を患う成人(18歳以上)でした。
参加者の選択基準には、NIHSSスコアが5以上の重度の脳卒中、脳卒中前の自立(Barthel Index >90)、ASPECTSスコアが4以上であることが含まれました。重要な点として、患者は静脈内溶栓療法を受けていませんでした。
参加者は、1:1で単回静脈内投与のネリネットイド(2.6 mg/kg、最大270 mg)またはプラセボを無作為に割り付けられ、年齢、NIHSSスコア、閉塞部位などの臨床変数に基づいて層別化されました。その後、すべての患者がEVTを受けました。主要評価項目は、無作為化後90日時点の改良Rankinスケール(mRS)スコア0-2の良好な機能的結果でした。
二次評価項目には、死亡率、神経学的悪化、機能的自立度、定量的障害測定が含まれました。安全性は、副作用と重大な副作用に焦点を当てて厳密に監視されました。
主要な知見
2020年12月から2023年1月まで、850人の患者が登録されました:454人がネリネットイド、396人がプラセボを受けました。主要評価項目(90日時点のmRS 0-2)を達成した割合は、ネリネットイド群で45%、プラセボ群で46%(オッズ比 [OR] 0.97;95%信頼区間 [CI] 0.72-1.30;p=0.82)であり、統計的に有意な差は見られませんでした。
二次評価項目、死亡率、神経学的障害測定は、グループ間に有意な違いはありませんでした。重大な副作用の発生率も同様で、ネリネットイドに起因する過剰な安全性の懸念はありませんでした。
これらの結果は、初期のESCAPE-NA1の結果とは対照的で、ネリネットイドが溶栓療法を受けない患者サブグループでのみ効果を示したことを示しています。これは、以前の期待に反するものであり、試験の力強いデザインと厳密な方法論が、ネリネットイドが静脈内溶栓療法のない患者に対してEVT直前に投与された場合に臨床的な利益をもたらさないとする強力な証拠を提供しています。
専門家のコメント
ESCAPE-NEXT試験は、現代の脳卒中ケアにおけるネリネットイドの役割に関する重要なデータを提供しています。効果が見られないことは、神経保護、再灌流タイミング、基礎となる病態生理学の複雑な相互作用に関する疑問を投げかけています。事後解析では、ネリネットイドがまだ利益をもたらす可能性のある患者サブグループや治療ウィンドウが明らかになるかもしれませんが、現在のデータは日常的な臨床使用を支持していません。
潜在的な制限には、患者選択の異質性、各施設間のEVT手技の違い、新規療法との併用や繰り返し投与の探索不能性が含まれます。神経イメージングバイオマーカーやメカニズム研究の進歩は、将来の試験における神経保護剤の選択基準を洗練する可能性があります。
専門家は、効果的な補助療法の追求が重要であると強調していますが、広範な導入に先立って厳格な翻訳的検証が必要です。ESCAPE-NEXT試験は、脳卒中における神経保護のための早期フェーズの有望な結果を大規模で慎重に設計された確認試験で再現することの重要性を強調しています。
結論
ESCAPE-NEXT試験は、静脈内溶栓療法を受けない急性虚血性脳卒中患者に対する血管内血栓回収術で、ネリネットイドが90日時点の機能的結果を改善しなかったことを示しました。ネリネットイドは、プラセボと同等の良好な安全性プロファイルを示しました。
これらの知見は、この患者集団においてネリネットイドが神経保護の補助療法として即時に役立つ可能性がないことを示唆しています。今後の研究は、具体的なサブ集団、最適な治療ウィンドウ、または再灌流介入とともに神経保護を利用するための組み合わせ戦略の特定に焦点を当てるべきです。
本研究は、神経保護戦略を臨床実践に移行する際の課題と、脳卒中の予後を改善するために継続的な厳密な臨床研究の必要性を強調しています。
資金源と試験登録
本研究は、カナダ保健研究所とNoNOによって資金提供されました。ESCAPE-NEXT試験はClinicalTrials.gov(NCT04462536)に登録されています。
参考文献
Hill MD, Goyal M, Demchuk AM, Menon BK, Field TS, Guest WC, Berrouschot J, et al. 急性虚血性脳卒中の患者における静脈内溶栓療法なしの血管内血栓回収術の際のネリネットイドの有効性と安全性(ESCAPE-NEXT):多施設、二重盲検、無作為化比較試験。Lancet. 2025年2月15日;405(10478):560-570. doi: 10.1016/S0140-6736(25)00194-1. PMID: 39955119.