ハイライト
- 早期から全身にエモリエンツを毎日塗布することで、一般乳児集団において24ヶ月までの医師診断によるアトピー性皮膚炎(AD)の発症率が低下します。
- ADの高リスクとされない乳児では、保護効果がより顕著で、広範な適用可能性が示されています。
- 犬と一緒に生活していると、エモリエンツの保護効果が強化されます。
- エモリエンツの使用は、皮膚への副作用を増加させず、日常的な小児皮膚ケアでの安全性を支持しています。
研究背景と疾患負荷
アトピー性皮膚炎(AD)は、一般的に小児湿疹と呼ばれ、世界中で最大20%の子どもたちに影響を与え、重要な世界的健康問題となっています。皮膚症状だけでなく、ADは「アトピー・マーチ」と密接に関連しており、食物アレルギーや喘息、アレルギー性鼻炎などの進行を伴うことがあります。ADの早期予防、特に病気発症前の乳児を対象とした一次予防は、小児科と皮膚科のケアにおける優先課題です。エモリエンツ療法は、皮膚バリア機能の回復を目的としてAD管理の中心的な役割を果たしていますが、ADリスクが高いと事前に選択されていない乳児における予防効果を検討した厳密な研究は少ないのが現状です。本試験は、このギャップを埋めるために、9週齢以前から始まる単純な毎日のエモリエンツ介入が、多様な地域ベースの乳児集団におけるAD発症率を低下させるかどうかを評価しています。
研究デザイン
この実践的、無作為化、分散型臨床試験では、米国の4つの州レベルの実践ベースの研究ネットワークに属する25の地域の小児科および家族医療クリニックから、1,247組の乳児と保護者が登録されました。参加者は2018年7月から2021年2月に募集され、2023年2月まで追跡調査が行われました。
登録基準は幅広く、家族内ADリスク要因を選ばずに、一般集団を代表する乳児を含めることができました。参加者は1:1で無作為に割り付けられ、介入群では9週齢までに全身に保湿剤を毎日塗布するように指示され、対照群ではエモリエンツを使用しないように指示されました。
主要評価項目は、最初の24ヶ月間の医師記録によるAD診断で、訓練を受けたコーディネーターが医療記録から抽出しました。二次監視には、保育者報告の副作用やAD診断を収集する四半期ごとの電子アンケートが含まれました。
主要な知見
1,247人の乳児のうち44.3%が女性で、平均登録年齢は約24日でした。24ヶ月時点で、エモリエンツ群の医師診断によるADの累積発症率は36.1%(SE 2.1)で、対照群は43.0%(SE 2.1)でした。相対リスク(RR)減少率は16%(RR 0.84;95% CI 0.73–0.97, P=0.02)でした。
特に、サブグループ分析では、ADの高リスクとされない乳児において予防効果がより顕著(RR 0.75;95% CI 0.60–0.90, P=0.01)であることが示され、遺伝的に傾向のある人口以外での介入の広範な適用可能性が強調されました。
興味深い効果修飾因子は、家庭内の犬への暴露でした。犬と一緒に生活している乳児では、エモリエンツ使用の保護効果が強化されました(RR 0.68;95% CI 0.50–0.90;P=0.01)。これは、環境要因と皮膚バリアのサポートが早期の免疫調整に相互作用する可能性を示唆しています。
安全性解析では、両群間に皮膚への副作用に統計学的に有意な差は認められませんでした。これにより、乳児の毎日のエモリエンツ使用の耐容性と安全性が確認されました。
専門家のコメント
この厳密に実施された実践的試験は、早期のエモリエンツの定期的な使用が広範な乳児集団におけるAD発症リスクを低下させることを強力に証明しています。これは、早期に皮膚バリアの完全性を回復または維持することで、AD病態の初期炎症経路を調整できるという概念を支持しており、既存のメカニズム的理解と一致しています。
犬と一緒に生活することで保護効果が強化される点は、早期の環境要因が免疫耐性とアレルギー疾患の予防に関連するという新興文献と一致しています。しかし、これらの知見は、基礎となる免疫学的メカニズムを解明するためのさらなる探求を必要としています。
以前の研究では高リスクの乳児が対象でしたが、本研究の包括的なデザインは一般化可能性を強化しています。ただし、臨床試験外での毎日のエモリエンツ使用の順守や2年以上の長期的な利点は、今後の調査が必要な分野です。
結論
9週齢以前から始まる全身への毎日のエモリエンツ使用は、代表的な米国乳児集団において24ヶ月までの医師診断によるアトピー性皮膚炎の累積発症率を有意に低下させます。この介入は安全で、単純で、潜在的に拡大可能であり、小児湿疹の一次予防策として有望です。早期のエモリエンツ使用を標準的な乳児ケアガイドラインに組み込むことで、ADの負担と関連するアトピー性合併症を軽減することができます。今後は、エモリエンツ製剤の最適化、環境修飾因子の理解、保護効果の持続性についての継続的な研究が必要です。
参考文献
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