背景と目的
敗血症ショックは、重度の感染によって循環系と細胞代謝の異常が引き起こされる重篤な状態であり、高い致死率を特徴とします。この文脈で、ステロイド補助療法が結果の改善につながる可能性があることが調査されています。しかし、多様な患者集団での一貫性のない結果により、その使用は依然として議論の余地があります。敗血症ショックを経験する肝硬変患者は、相対的な副腎不全を発症することが多く、これは血管収縮薬への反応が悪く、予後が悪化することを示しています。このサブグループは、ショックの逆転と死亡率の低下に役立つ可能性のある早期の低用量ヒドロコルチゾン投与から特に利益を得られるかもしれません。本研究では、肝硬変を有する敗血症ショック患者の生存率とショック解消の改善における低用量ヒドロコルチゾンの効果を評価することを目的としました。
方法
本試験は、敗血症ショックを呈する肝硬変を有する成人患者を対象とした、二重盲検、無作為化、プラセボ対照多施設試験でした。患者は、最初に100 mgのボルス投与を受けてから24時間で200 mgの持続点滴を投与するヒドロコルチゾン群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。治療期間は最低3日間で、その後、ショック解消のタイミングに応じて3〜7日の漸減期間が続きました。主要評価項目は、登録後28日時点の全原因による死亡率でした。二次評価項目には、ショック解消率、ショック解消までの時間、ショック再発の頻度、新たなショックエピソード、入院中の二次感染が含まれました。安全性評価は、低血糖や高血糖などの代謝障害に焦点を当てました。
結果
試験は、患者の登録が遅れたため83人の患者で早期終了しました。ほとんどの患者は低〜中程度の血管収縮薬が必要でした。解析の結果、ヒドロコルチゾン群(35%)とプラセボ群(39.5%)の28日死亡率に統計的に有意な差は見られませんでした(p=0.84)。ショック解消率も同様でした(85% 対 72.1%; p=0.25)、ショック解消までの中央値も3日(四分位範囲 [IQR] 2.2 から 4)対 4日(IQR 2 から 7.5)でした。注目すべきは、プラセボ群の患者のうち、難治性ショックで死亡した割合(47.6%)がヒドロコルチゾン群(8.7%)よりも高かったことです。入院中のショック再発、新たなショックエピソード、細菌性および真菌性二次感染の頻度については、両群間に有意な差は見られませんでした。低血糖や高血糖の発症は、ヒドロコルチゾン治療群でより一般的でした。
多変量解析では、急性増悪性慢性肝不全(ACLF)の重症度と不適切な経験的抗生物質療法が28日死亡率の独立した予測因子であることが判明しました(ハザード比 6.40; 95% 信頼区間 3.21–12.79)。
結論
低用量ヒドロコルチゾンの補助療法は、低〜中程度の血管収縮薬が必要な肝硬変を有する敗血症ショック患者の生存率向上やショック解消の加速には効果がありませんでした。ただし、ヒドロコルチゾンは低血糖や高血糖の頻度を高める一方で、難治性ショックによる死亡を減少させる可能性があります。これらの知見は、この脆弱な集団の予後の改善のためにACLFの重症度管理と適切な抗生物質療法の重要性を強調しています。
臨床的意義と今後の方向性
肝硬変患者における敗血症ショックの管理は依然として困難です。本研究は、低〜中程度の血管収縮薬要件を持つ患者において、低用量ヒドロコルチゾンの常規投与が短期死亡率の改善やショック解消の加速に効果がないことを示唆しています。ただし、難治性ショック死亡率の減少の潜在的な利益についてさらなる調査が必要です。今後の研究では、患者サブグループ、用量戦略、コルチコステロイド療法のタイミング、ならびに肝不全と感染制御の統合アプローチを探索し、結果を最適化する必要があります。
試験登録と参考文献
本試験は、University Hospitals Leuven (S55168)、EUDRACT (2010-024273-38)、ClinicalTrials.gov (NCT02602210) に登録されています。
参考文献:
Meersseman P, Hernández-Tejero M, Diaz JM, et al. Low-Dose Hydrocortisone in Cirrhotic Patients With Septic Shock: A Double-Blind Randomised Placebo-Controlled Trial. Liver Int. 2025 Sep;45(9):e70257. doi:10.1111/liv.70257. PMID: 40757786; PMCID: PMC12320571.