研究背景と疾患負荷
メタボリック機能不全関連性脂肪性肝炎(MASH)、別名非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝脂肪変性、炎症、肝細胞障害、線維症を特徴とする世界的な健康問題であり、その発生率が増加しています。MASHはメタボリックシンドローム、肥満、2型糖尿病と強く関連しており、肝疾患による死亡率や罹病率に大きく寄与しています。MASHの大きな負荷にもかかわらず、効果的な薬物療法は限られており、新しいメカニズムに基づく治療法に対する未充足の医療ニーズが存在します。
デ・ノヴォ脂質合成は、MASHの病態発現に深く関与する重要な代謝経路であり、脂毒性を促進し、炎症、肝細胞障害、線維症への進行を悪化させます。トリグリセリド合成の中心的な酵素であるジアシルグリセロールO-アシルトランスフェラーゼ2(DGAT2)は、肝脂肪蓄積とその下流の病理的影響を軽減する有望な標的です。ION224は、DGAT2 mRNAを阻害してDGAT2タンパク質の発現と活性を低下させるように設計された肝臓指向性アンチセンスオリゴヌクレオチドです。前臨床研究では、この治療戦略により脂質合成が強力に抑制され、肝臓組織学が改善することが示唆されています。
研究デザイン
ION224-CS2は、米国とプエルトリコの43の臨床施設で実施された堅牢な適応的、二部構成、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照のフェーズ2試験でした。本研究では、生検で確認されたMASH(線維化ステージF1〜F3)と基準値以上の肝脂肪変性(≥10%)を持つ18歳から75歳の成人を対象とし、疾患の程度が临床上に意義のある集団を代表していました。
試験の第1部では、参加者が1:1:1:1の比率で、ION224 60 mg、90 mg、120 mgまたはプラセボを1ヶ月に1回皮下注射されるように無作為に割り付けられました。中間解析(安全性と肝脂肪変性に焦点を当て)の後、第2部では、ION224 90 mgまたは120 mgとプラセボを2:1の比率で無作為に割り付けました。主要効果評価項目は、51週時点で非アルコール性脂肪性肝疾患活動性スコア(NAS)が2点以上低下し、肝細胞気球変性または小葉内炎症が1点以上改善し、線維化が悪化しないことを達成することでした。主要解析は、投与スケジュールに従った(最低13回中10回、連続3回以上の欠投なし)かつエンドポイント肝生検を完了した参加者を含む事前に定義されたプロトコル適合セットで行われました。
主な知見
2021年6月から2022年12月の間に160人の参加者が無作為に割り付けられました:ION224 60 mg群23人、90 mg群45人、120 mg群46人、プラセボ群46人。そのうち、123人が主要解析のプロトコル適合基準を満たしました。
主要評価項目は、ION224 90 mg群の46%(39人中18人)と120 mg群の59%(34人中20人)で達成され、プラセボ群の19%(32人中6人)と比較されました。プラセボとのリスク差は、90 mg群で27.4%(95% CI 6.7–48.1、p=0.0094)、120 mg群で40.1%(18.7–61.4、p=0.0002)であり、統計的に有意で臨床上有意な組織学的改善を示しました。
特に、これらのNASと肝細胞気球変性または小葉内炎症の改善は、線維化の悪化なく起こりました。これは長期予後の重要な考慮事項です。また、本研究では、組織学的便益が体重変化に依存していないことが示され、ION224の効果が体重減少に依存していないことが示されました。
安全性解析では、ION224は良好に耐容されました。ION224群では頻繁に副作用が報告されましたが(94% vs プラセボ群89%)、主に軽度から中等度でした。重要なことに、死亡例や治療関連の重大な副作用は報告されておらず、安全性プロファイルは用量間で一貫していました。
専門家コメント
ION224-CS2試験は、MASH管理におけるDGAT2阻害を介したアンチセンスオリゴヌクレオチド療法の有効性を支持する先駆的な臨床的証拠を提供しています。適応的試験デザインと厳格なプロトコル適合解析は、結果の信頼性を向上させています。組織学的評価項目—NASの低下と線維化の保持—は規制当局の期待に一致し、肝硬変への進行を減らす可能性があります。
体重減少現象からの独立性は、多くのMASH患者が持続的な体重管理に苦労していることから、臨床的には特に重要です。この特性は、GLP-1受容体作動薬などの体重減少を促進し、代謝パラメータを改善する薬剤との併用療法の可能性を高めます。
制限点には、比較的小さなプロトコル適合集団と51週間の期間が含まれます。これはフェーズ2評価には十分ですが、持続性や線維化回帰、臨床結果への影響を評価するための長期的研究が必要です。さらに、安全性プロファイルは有望ですが、より大規模で多様な集団でのモニタリングが重要です。
結論
ION224-CS2フェーズ2試験は、51週間で肝臓指向性DGAT2アンチセンス阻害剤ION224が効果的かつ安全であることを示すことで、MASH療法において重要な進展をもたらしました。肝炎症と肝細胞障害の組織学的改善が観察され、線維化の悪化や体重減少への依存がないことは、ION224をさらなる臨床開発の有力な候補として位置づけます。今後の研究では、長期結果、線維化回帰、他の代謝介入との組み合わせ療法への統合に焦点を当て、患者利益を最大化することを目指すべきです。
参考文献
Loomba R, Morgan E, Yousefi K, Li D, Geary R, Bhanot S, Alkhouri N; ION224-CS2 Investigators. Antisense oligonucleotide DGAT-2 inhibitor, ION224, for metabolic dysfunction-associated steatohepatitis (ION224-CS2): results of a 51-week, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial. Lancet. 2025 Aug 23;406(10505):821-831. doi: 10.1016/S0140-6736(25)00979-1. PMID: 40849139.