背景
意図的な自傷行為は、非致死的な事例と自殺を含み、世界中およびスペインにおいて重要な公衆衛生課題となっています。これらの行動の傾向を監視することは、効果的な予防策とメンタルヘルス介入を設計する上で不可欠です。非致死的な意図的な自傷行為(NLISH)は、しばしば自殺リスクの前兆または指標となりますが、人口統計学的および臨床的なプロファイルは異なります。最近の社会的ストレス要因、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、これらのパターンに影響を与えた可能性があり、更新された全国データが必要です。
研究デザイン
この包括的な全国民を対象としたレジストリ研究では、2018年から2023年までのスペインでのNLISHによる入院と記録された自殺を分析しました。NLISHデータは、入院イベントを捉える健康レジストリから、自殺データは全国死亡記録から取得されました。調査パラメータには、社会人口統計学的変数(年齢、性別)、入院時の臨床的特性、およびNLISHと自殺の両方で使用された方法が含まれます。
年間および月間の傾向は、Joinpoint回帰分析を使用して全体的な変化率と、特に性別と年齢層別の変化率を量化しました。この統計的手法により、傾向が有意に変化するポイントを特定することができます。
主要な知見
研究期間中、合計73,692件のNLISHによる入院と23,496件の自殺が記録され、それぞれ年平均12,282件と3,916件でした。
人口統計学的特性:
– NLISHによる入院は女性が主を占めていました(60.1%、n=44,304)。
– 自殺は男性に多く見られました(74.4%、n=17,471)。
– 10歳から24歳の若者は、NLISHによる入院の24.3%(n=17,915)を占めましたが、自殺の4.8%(n=1,125)のみでした。
– 65歳以上の高齢者は、自殺の31.2%(n=7,327)を占めましたが、NLISHによる入院の割合は较小(12.8%、n=9,410)でした。
使用方法:
– 薬物中毒がNLISH事例の主な方法でした(68.7%、n=50,643)。
– 自殺では首吊りが最も多い方法でした(46.0%、n=10,810)。
傾向分析:
– NLISHの発生率は年平均8.0%(95%信頼区間[CI]:1.5%〜15.9%)で増加し、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック開始後、若い女性での増加が顕著でした。
– 自殺の発生率は年2.6%(95% CI:0.6%〜4.8%)でやや緩やかに増加しましたが、若い女性と中年男性での顕著な上昇が観察されました。
専門家コメント
NLISHと自殺の異なるパターンは、自殺行動の複雑さを示しており、対象別の予防介入の必要性を強調しています。若い女性のNLISHの発生率が著しく高いことは、パンデミック関連の孤立、経済的不安定性、メンタルヘルスサービスの中断などの新規心理社会的ストレス要因を反映している可能性があります。
一方、高齢者、特に首吊りなどの高度に致死的な手段を使用する男性の自殺率の上昇は、晩年期うつ病、社会的孤立、および手段制限へのアクセスに関する重点的な戦略の必要性を示唆しています。
本研究の強みには、包括的な人口カバーと堅牢な統計的傾向分析の使用が含まれます。ただし、制限点として、NLISHのための入院データへの依存により、コミュニティや比較的軽度の事例が過小評価される可能性があり、死亡記録の正確性は死亡認定の慣行に依存します。
結論
この全国研究は、2018年から2023年にかけてスペインでの非致死的自傷行為の増加と、自殺率の小幅ながらも有意な上昇を明らかにしました。特に若い女性の自傷行為の脆弱性と、若い女性と中年男性での自殺率の顕著な上昇が強調されています。
年齢と性別に敏感な予防プログラムの開発と実施が緊急に必要です。これらの取り組みには、メンタルヘルスサービスのアクセス向上、リスクのあるグループの早期識別と介入、公教育による差別意識の低減、自殺死亡を抑制するための手段制限政策が含まれるべきです。
さらなる研究は、潜在的な心理社会的および構造的要因の解明、介入効果の評価、2023年以降の継続的な傾向のモニタリングが求められています。
資金提供
本研究は、Instituto de Salud Carlos III (ISCIII) からの助成金 PI23CIII/00056, CP21/00078, AC22/00006, PI22/00107, PI17/00521、欧州連合 NextGenerationEU/MRR、ERA PerMed、FMTV3 (202220-30)、アメリカ自殺予防財団 (AFSP ECR-1-101-23)、脳・行動研究財団 (BBRF NARSAD-31312)、国立精神衛生研究所 (NIMH 1R25MH129256-01A1) の支援を受けました。
参考文献
López-Cuadrado T, Mortier P, Alonso J, Martínez-Alés G. Trends of non-lethal intentional self-harm and suicide in Spain 2018-2023: a nationwide registry-based study. Lancet Reg Health Eur. 2025 Sep 27;58:101467. doi: 10.1016/j.lanepe.2025.101467. PMID: 41080066; PMCID: PMC12510044.