メトホルミンをパクリタキセル/カルボプラチンに追加した進行・再発子宮内膜がん治療の評価:NRG Oncology/GOG 第II/III相試験からの洞察

メトホルミンをパクリタキセル/カルボプラチンに追加した進行・再発子宮内膜がん治療の評価:NRG Oncology/GOG 第II/III相試験からの洞察

序論

子宮内膜がん(EC)は先進国で最も多い婦人科悪性腫瘍であり、進行または再発した症例では重要な治療課題となっています。標準的な第一線化学療法はパクリタキセルとカルボプラチン(PC)の併用で、効果は認められるものの長期生存率は十分ではありません。メトホルミンは広く使用されている糖尿病治療薬で、mTOR経路の阻害やインスリン/IGFシグナル伝達の低下など、子宮内膜がんの発生に関与する機序を介して抗腫瘍効果を示しています。メトホルミンが子宮内膜がんの予後を改善するという仮説に基づいて、化学療法レジメンへの追加についての臨床研究が行われています。本稿では、NRG Oncology/GOGが実施した第II/III相試験の有効性と安全性を評価します。

研究背景と疾患負荷

子宮内膜がんの発生率は、肥満や代謝症候群の増加により上昇しており、代謝異常と子宮内膜がんの進行との関連性が示唆されています。進行期または再発性疾患は予後不良で、5年生存率は従来の化学療法にもかかわらず限定的です。より効果的な全身療法の未充足なニーズから、化学療法の効果を強化するか、子宮内膜がんの生物学をより効果的に標的とする補助剤の探索が進められています。メトホルミンは既知の安全性と有望な抗癌作用を持つため、この文脈での再利用候補として注目されています。

研究デザイン

本研究は、ステージIII/IVA、IVB、または再発性子宮内膜がんの化学療法未治療患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験でした。参加者は、パクリタキセル/カルボプラチン化学療法と経口メトホルミン850mgを1日2回投与する群、またはパクリタキセル/カルボプラチンとプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、化学療法後も維持療法として継続されました。

第II相の主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)で、早期の効果の兆しを特定することを目指しました。第II相の結果に基づき、メトホルミンは第III相でのさらなる検討に値すると判断され、全生存期間(OS)が主要評価項目となりました。副次評価項目には奏効率(ORR)、奏効期間、毒性プロファイルが含まれました。

主要な知見

2014年3月17日から2017年12月22日にかけて、合計448人の患者が登録され、無作為化されました。第II相の中間解析は第III相への継続を支持しました。しかし、2018年2月1日に実施された第III相の中間解析では無効性が示され、生存期間の改善がないため試験は早期終了となりました。

興味深いことに、メトホルミン群とプラセボ群の死亡リスク比(HR)は1.088で、90%信頼区間(CI)は0.803〜1.475であり、利益よりもリスクが高い傾向が示されました。無増悪生存期間については、HRは0.814(90% CI: 0.635-1.043)で、メトホルミンに有利な非有意差の傾向が示されましたが、試験を続けるのに十分な規模ではありませんでした。

中央値OSは解析時点でプラセボ群では到達しておらず、メトホルミン群では28ヶ月でした(中央値フォローアップ期間10ヶ月、総死亡数121人)。副次評価項目である奏効率と奏効期間は有意な違いを示しませんでした。毒性は両群で同等で、メトホルミン投与による予期しない有害事象は報告されていません。

専門家コメント

本試験は、大規模でよく設計されたものであり、メトホルミンは魅力的な前臨床的根拠にもかかわらず、進行または再発性子宮内膜がんの第一線化学療法に追加しても生存期間を改善しないことを示す高レベルの証拠を提供しています。前臨床データと臨床結果の不一致は、用量、腫瘍の多様性、代謝状況、癌微小環境の複雑さなどの要因に関連している可能性があります。

観察された死亡リスクのわずかな増加は偶然の結果であるか、この臨床文脈におけるメトホルミンの認識されていない効果に関連している可能性があり、再利用剤であっても厳密な無作為化試験の重要性を強調しています。PFSやOSの利益が示されないままメトホルミンを維持療法として継続したことは、in vitroや疫学的知見を治療進歩に翻訳する際の課題を浮き彫りにしています。

さらに、試験の登録基準は進行性子宮内膜がんの広いスペクトラムをカバーしていたため、分子的に定義されたサブセットに限られた潜在的な利益が希薄化される可能性があります。今後の研究では、バイオマーカーによる層別化を行い、代謝介入に反応しやすいと考えられる患者集団を特定することが有益であるかもしれません。

結論

NRG Oncology/GOG第II/III相試験は、進行または再発性子宮内膜がんの可測定ステージIII/IVA、IVB、または再発性疾患に対するパクリタキセル/カルボプラチン化学療法にメトホルミン850mgを1日2回投与しても、無増悪生存期間や全生存期間を改善しないことを明確に示しています。これらの知見は、この状況でメトホルミンを補助療法としてルーチン使用することを支持せず、進行性子宮内膜がんに対する全身療法をより適切に調整するために新規薬剤やバイオマーカーの継続的な評価の重要性を強調しています。

参考文献

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