ハイライト
- 選択的開腹手術による腹壁ヘルニア修復後の感染によるメッシュ除去の累積リスクは、10年間で3%未満です。
- 30日以内に術後創部合併症を経験した患者では、メッシュ除去のリスクが高まり、10年間の累積ハザードは7.94%(合併症なしの患者は2.48%)です。
- 臨床的に重要な感染によるメッシュ除去の大部分は術後5年以内に発生し、中央値は約8ヶ月です。
- これらの知見は、選択的開腹手術による腹壁ヘルニア修復でのメッシュの広範な使用を支持しています。
研究背景
開腹手術による腹壁ヘルニア修復は、腹部壁を強化し、ヘルニアの再発を減らすために頻繁に合成メッシュが植え込まれる一般的な手術です。年間多くの手術が行われているため、特に感染によりメッシュ除去が必要な場合のメッシュ使用の長期安全性プロファイルを理解することは重要です。初期術後合併症(Surgical Site Infections, SSIs)は記録されていますが、臨床的に重要なメッシュ関連感染の長期リスクプロファイルはまだ十分に特徴付けられていません。この知識のギャップは、手術の決定と患者への説明に影響を与えます。
研究設計
この研究は、2011年から2021年の11年間にわたりメディケア費用支払い人口全体の包括的な行政請求データを分析する後ろ向きコホート設計を使用しました。対象は、18歳以上の成人で、選択的入院開腹手術による腹壁ヘルニア修復を受け、メッシュが植え込まれた患者でした。主要なアウトカムは、Current Procedural Terminology (CPT)コードによって識別されたメッシュ除去で、臨床的に重要なメッシュ感染の代替指標として使用されました。二次解析では、30日以内の術後創部合併症とその後のメッシュ除去の発生との関連を検討しました。広範なデータセットは、メディケアでしばしば代表される高齢者や合併症のある集団への一般化を向上させます。
主要な知見
59,453人の患者(女性59.2%)のうち、1,330人(2.2%)がフォローアップ中にメッシュ除去を必要としました。メッシュ除去までの中央値は238日(約8ヶ月)で、四分位範囲は49日から757日(2ヶ月から25ヶ月)でした。これは、大部分の除去が術後5年以内に発生したことを示しています。メッシュ除去を必要とした患者は、女性がより多く(63.0% 対 59.1%, P=0.005)、初期手術時に腸切除の頻度も高かった(3.5% 対 2.3%, P=0.008)。
特に、30日以内の創部合併症はメッシュ除去と強く関連していました。メッシュ除去を必要とした患者の約23.6%が早期創部合併症を経験していたのに対し、除去を必要としなかった患者は6.6%でした(P<0.001)。メッシュ除去の10年間の累積ハザードは、創部合併症を経験した患者では7.94%(95% CI, 7.03–8.84)で、合併症なしの患者では2.48%(95% CI, 2.31–2.64)でした。この知見は、早期創部治癒状態が長期的なメッシュの安全性の重要な予測因子であることを示しています。
全体的な低いメッシュ除去の発生率は、選択的開腹手術による腹壁ヘルニア修復後の臨床的に重要なメッシュ感染によるメッシュ除去がまれな事象であることを示しており、高リスクグループであっても同様です。
専門家のコメント
これらの結果は、選択的腹壁ヘルニア修復における合成メッシュ感染のリスクに関する長年の懸念に対する堅牢な実世界の証拠を提供します。後ろ向き性と行政データへの依存にもかかわらず、大規模なサンプルサイズと長期フォローアップは結論に信頼性を与えます。メッシュ除去を臨床的に重要な感染の代替指標として使用することは、手続きの文脈を考えると合理的です。
早期創部合併症を経験した患者での除去の頻度の高さは、術後感染や創部治癒不良が慢性メッシュ感染を引き起こしやすいという生物学的な可能性と一致します。この知見は、早期創部問題を経験した患者に対する対策と予防戦略の強化が成績改善につながることを示唆しています。
制限点には、メッシュの種類、正確な感染微生物学、または手術技術などの詳細な臨床情報の欠如があります。これらは感染リスクを調節する可能性があります。また、メディケア人口は高齢者に偏っているため、若年集団への外挿には注意が必要です。
結論
この包括的なメディケアコホート研究は、選択的開腹手術による腹壁ヘルニア修復後の臨床的に重要なメッシュ感染によるメッシュ除去の長期リスクが低く、10年間の累積発生率は3%未満であることを示しています。早期術後創部合併症はこのリスクを大幅に増加させるものの、影響を受けるのは少数です。これらの知見は、メッシュの使用のリスク・ベネフィットプロファイルが良好であるため、選択的開腹手術による腹壁ヘルニア修復での合成メッシュの広範な使用を支持しています。今後の前向き研究では、リスク層別化の精緻化と術前・術後の管理の最適化に焦点を当てて、感染合併症のさらなる削減を目指すべきです。
参考文献
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